3/ 21st, 2014 | Author: Ken |
「U-ボート」…紙とフィルムの上の戦争。
「これは小説だが、フィクションではない。ここに語られる事件を、著者は身をもって体験している」
これは「Uボート」ロータル=ギュンター・ブーフハイム著(松谷健二 : 訳/早川書房:1977)に捧げられた賛辞だが、まさにこの本には、汗と油と垢と悪臭にまみれた艦内、その密閉された潜水艦内の狭隘な空間のなかで、閉塞感と疲弊感を、わざと卑猥で下卑た軽口で息苦しさを誤魔化す乗員たち。敵駆逐艦に制圧され、爆雷の轟音と圧壊の恐怖という極限状況の中での苦闘が皮膚感覚でリアルに伝わってくる。そして戦争という虚無感を声高に押し付けるものもない。就航1150隻のUボート、779隻沈没、2隻拿捕、Uボート兵員3万9000人のうち2万8000人が帰らなかった….。その原作を忠実に再現した「Uボート」監督:ウォルフガング・ペーターゼン(1982西ドイツ)深海でのたうつ潜水艦の緊迫した乗員の心理状態までもが息苦しいほどに迫ってくる。…
敗戦国の映画には悲壮感と虚無感があるのだが、戦勝国のハリウッド映画にはアクションとフィクションとエンターテインメントしか伝わってこない。勝てば官軍、正義の戦争?には反省や痛みが伴わないのだ。
そして我が国の「真夏のオリオン」監督:篠原哲雄(2009)もう潜水艦や旧海軍のことを、全然勉強していない人たちが脚本、演技している。状況設定や軍事技術・時代背景の描写を想像すらしなくて作るからこうなるのだ。嗚呼!戦後は遠くなりにけり。戦争を知らない世代、いや調べようともしない人たちなのだろう。安っぽいセンチメンタルである。….まあ、潜水艦という過酷な環境でありながら、乗員の顔や服が汚れていない。……大声で怒鳴るのが演技と勘違いしている。潜水艦用語の独特の符丁と復唱さえやらないのだから。原作「雷撃深度一九・五」池上司/読みかけて途中で投げ出した。まず、雷撃深度一九・五って何?戦艦でも喫水10m前後なのに…潜望鏡深度だってそれ以下だし…? 「眼下の敵」(1958)監督:ディック・パウエル、出演:ロバート・ミッチャム、クルト・ユルゲンスのパクリである。….いつの頃からか映画が佳境に入るとフォークソング調のJPOPなんか流れて….見ているこちらが暗闇のなかで赤面し、恥ずかしくなって席を立ち映画館を逃げ出すのだ。日本映画ってどうしようもないですね。またYOU TUBEなんかでも実録映像に安っぽいポップスが、いかにも悲劇性と哀しみを掻き立てようと….この神経って何なんだろうか?
そこで今までに読んだ本や映画を思い出した。
●「U-ボート戦記:デーニッツと灰色狼」ヴォルフガング・フランク著(松谷健二:訳/フジ出版社:1975)Uボート部隊の栄光と悲劇、ドイツ海軍提督デーニッツとの物語。Uボート全史と言える。
●「鉄の棺」ヘルベルト・A・ヴェルナー著:フジ出版(1974)
●「U-ボート977」艦長であったハインツ・シェッファー著(1950)
●「U-ボート・コマンダー」ペーター・クレーマー著
その他多くのムック版やU-ボートの本があるが、ST-52による全溶接建艦の話やXXI型やワルタータービンの話など切りがない。
●「轟沈 印度洋潜水艦作戦記録」日映(1944)インド洋で通商破壊戦にあたった日本の潜水艦に、海軍の報道班が乗り組んで、作戦の様子を取材したものだ。と言うが、恐らく内地に帰還する潜水艦で撮影したものか?
●「海底戦記 伏字復刻版」(中公文庫)の山岡荘八/著と同じ頃か?
●「海底十一万浬」稲葉通宗(朝日ソノラマ)
●「伊58潜帰投せり」橋本 以行(学習研究社)回天作戦中、重巡インディアナポリス撃沈。
●「あゝ伊号潜水艦」板倉光馬(光人社NF文庫)ご子息に何度かお会いしたことがある。
●「消えた潜水艦イ52」佐藤仁志:(日本放送出版協会)その最後と沈艦を探すドキュメンタリーをNHKで見たことがある。
●「深海からの声 Uボート234号と友永英夫海軍技術中佐」富永孝子(新評論)
●「鉄の棺」斉藤實(光人社NF文庫)
●「伊号潜水艦訪欧記 ヨーロッパへの苦難の航海」伊呂波会 編(光人社)
●「深海の使者」吉村昭(文藝春秋)この本で初めて遣独潜水艦のことを知った。
●「潜水艦伊16号通信兵の日誌」石川幸太郎:草思社….運命の魔の手が迎えに来るその日までこれにて….ハワイ海戦以来の陣中日誌、一冊目を終る。読み返す気もない。幾度か決死行の中にありて、気の向いたときに書き綴ったもの。そしてわれ死なばもろともにこの世から没する運命にある。しかし、第二冊目を書き続けてゆかねばならない。運命の魔の手が、太平洋の海底に迎えに来るその日まで。…淡々と描かれたハワイ真珠湾攻撃、マダガスカル島攻撃、インド洋通商破壊作戦、南太平洋ソロモン海戦に参戦。19年5月19日、ソロモン諸島北西海面で伊一六潜と運命を共にした。
…….もちろん私は戦争は知らない。しかし父や兄の時代は戦争そのものが日常であり、ほんの昨日のことであったのだ。