2/ 17th, 2012 | Author: Ken |
奇ッ怪巨獣、がんばれ T・レックス。
恐竜の嫌いな男の子なんていない!ぼくだって夢中になったものだ。最初はブロントサウルスだった。ついで重戦車のようなトリケラトプス、そして剣竜ステゴザウルスだ。真打ちはティラノザウルスである。かって地上をこんな奇怪なのが徘徊していたとは!まず巨大である。異形である。獰猛である。進化のデザインとはいえ常識を逸脱した異様さである。ウンベルト・エーコの「醜の歴史」を持ち出すまでもなく「異醜だからからこそ美しい」、磁石のように引きつけて止まない怪しさに魅せられるのだ。食うためにのみ巨大化した頭部、恐ろしいまでに凶暴な歯列、取って付けたような異常に小さい前脚、おまけに指まで退化し鈎爪が二本だ。
…映画にも興奮した。いまや定番となったT・レックスと剣竜の闘い。これは「キングコング」だった。「地底探検」「失われた界」「恐竜グアンジ」これはウェスタンなのだ。T・レックスにカウボーイが立ち向かい投げ縄で生け捕ろうとする…。そして無茶苦茶な話しなのだが「恐竜100万年」…まあ、ラクエル・ウェルチの見事な肢体が売り物なんだが石器時代に恐竜がいるわけがない。そして「ジェラシック・パーク」と続く….。
化石だって凄い!いまだって博物館に行けば血が騒ぐのだ。「スー」の巨大な骨の化石を見て驚嘆しない者はいないだろう。この地上に君臨した王者たちはなぜ絶滅したのだろう。6500万年前、白亜紀末期、突如絶滅した。その頃われらのご先祖たち哺乳類は鼠くらいの大きさで恐竜たちから隠れながらコソコソ生きていたのだ。恐竜絶滅説は数多くあるのだが最有力は隕石衝突説である。
1980年、ノーベル物理学者のルイス・アルバレズ親子らは「直径10キロの隕石衝突が引き起こした環境変動」とする説を提唱、白亜紀と第三紀の境目の地層(K-T境界)から多量のイリジウムが見つかったのが論拠になった。イリジウムは希元素で地球には少ないのだが隕石には多く含まれているのだ。91年にはメキシコのユカタン半島に、直径180キロのクレーター「チチュルブクレーター」が発見された。この「チチュルブ衝突」が恐竜絶滅の原因ではないか?時期も一致する。しかしそれだけでは?という疑問も多いのだ。…恐竜、この愛すべき古生物。ぼくはアパトサウルスなんて呼ぶよりブロントサウルスと言いたいのだ!なぜ名前が変わったのか?それを科学エッセイの名手であり古生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドが「がんばれカミナリ竜・進化生物学と去りゆく生き物たち」で恐竜「ブロントサウルス(雷のトカゲ)」が「アパトサウルス(騙す、まやかすトカゲ)」に変えられてしまったお話しが愛情を込めて述べられている。ぼくは彼の本が大好きなのだ。でも02年に旅立ってしまった。… 「パンダの親指」「ニワトリの歯」「フラミンゴの微笑」「ダーウィン以来」「ワンダフルライフ」「人間の測りまちがい」「個体発生と系統発生」「時間の矢・時間の環」「嵐のなかのハリネズミ」「八匹の子豚」「干し草のなかの恐竜」「ダ・ヴィンチの二枚貝」「マラケシュの贋化石」「ぼくは上陸している」「神と科学は共存できるか」。…彼は5歳の時に博物館に連れていってもらってティラノザウルス・レックスを見た時「私はそんな物があるとはしらなかった。私は畏敬の念に打たれた」と後に振り返っている。彼の友人であり多くの科学エッセイやSF、科学啓蒙書残したカール・セーガンも逝ってしまった。そしてグールドがNHKのインタビューで語っていた。「セーガンは背が高いから天文学者に、僕は背が低いから古生物学者になったんだよ….」。彼のユーモアある豊かな人間性が偲ばれますね。