1/ 6th, 2010 | Author: Ken |
どんなものを食べているか言ってみたまえ。
どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言い当ててみせよう。これはあのブリア・サヴァラン先生の言葉だが、ウーン、言い得て妙というか達人ならではの言葉ではあるナ。最近ブログを賑わしている大半はグルメではあるが、グルメとは食通ということなのであろう。最初に聞いた時は「あんまり高いのでグルグル目が廻る」ことかと思った。またミュシュラン・マップなんぞも流行っているそうじゃな。
「見知らん」「身酒乱」かは存知あげねども、私にはとても語れる資格なぞないのだが、居酒屋の片隅で食談義など聞いておると、みなさん非常にお詳しい。これはちと勉強せねばなるまいなと、フランスはあの大教授の本なぞ引っぱり出して励んでいる最中じゃ。孔子も「その時をえざらば食わず、その醤をえざらば食わず、割く正しからざれば食わず」とのたまっていらっしゃる。
「美味礼賛」つまり「味覚の生理学」であり「超絶的美味学の瞑想」である。学殖蘊蓄を傾けた人間哲学の書なのである。
しかし内容は軽快、アフォリスムとユーモアに満ちた語りで随分と楽しめた。また大教授は美の女神ミューズと9人の娘たちにガステリアという味覚をつかさどる10番目の女神を創造した。何とも心憎いじゃないか。わたしはとてもグルマンディーズなんかにはなれっこないが、
1)お腹が空いていること 2)誰と食べるか 3)時間を共有すること 4)食を与えてくれたことに感謝すること。
これが基本なのではあるまいか。おにぎり一つでも遠足で食べた味は忘れぬし、あの芋の蔓やタンポポの根、フスマのスイトンさえ懐かしく思い出させる。細胞から飢えておったのじゃな。「この飯、疎かには食わんぞ」と、デフレ飽食の時代に考えてしまうのは貧しい世代の繰り言か。—先生!わたしは昨日、ニラレバとポテサラ、ドテ焼きとテッチャン炒めに焼酎二杯なんですが、わたしの人なりを当ててください。
…「君ね。芳醇清澄なワインのコケットリーな味わい、味覚享楽のこの上なきもの、つまりNec Plus Ultraを知らずして何を語れよう。しかしじゃ、だれかを食事にさそったのなら、君はその人の幸福を引き受けたのじゃぞ。何であれ美味しくいただく。いいただくためには創意と工夫と心がいる…。料理とはこれなんじゃよ」。
そこで思い出した「大阪で二番目に美味い店、一番はおふくろの味」と、師匠がコピーに書いておった。おふくろの味ねー。貧乏くさいね。あんまり大したもの食わしてくれなかったしね。でも産まれて初めて口にしたもの、そう、おふくろの「おっぱい」の味なんだろーね。
●「美味礼賛」ブリア・サヴァラン著/関根英雄・戸部松実:訳 岩波文庫