6/ 26th, 2011 | Author: Ken |
ウィグナーの友猫
量子力学における観測・測定行為をどう捉えるか、つまり観測による波動関数の収縮の話だ。コペンハーゲン解釈、エヴェレットの多世界解釈など様々な説があるが、80年過ぎたいまも「波動関数の実在性」そのものに関する解答はない。ノイマンとウィグナーの理論では、観測対象粒子が遭遇するマクロの検出器内の物質系の状態もミクロである。したがって検出器を通過する粒子はすべて同じ位相のズレをもつ、よって物理的過程としての「波動関数の収縮」はない。彼らは「波動関数の収縮」は”抽象的自我”や”意識”だと言うのだ。
… 観測とは観測対象のミクロ系 → 検出器(猫)→ 観測者の眼底視神経 → 神経系 → 脳細胞 → 認識 → 波動の収縮?…
そこでだ、あの有名な「シュレーディンガーの猫」の実験を行う。シュレーディンガーは「猫のパラドクス」によって、彼らの理論を皮肉を込めて批判したのだ。・・・著名な物理学者であるウィグナー先生がその友人「猫(家のはすごく賢いネコなので携帯電話もPCだって使えるのだ)」に実験をさせるのだ。毒ガスでは猫が可哀想なので代わりにランプ(これいいでしょう!ψ・プサイの形の蜀台だよ)を使う。放射性同位元素が励起状態にあって放射線が出なければ、検出器の信号電流はなくランプは点灯しない。基底状態に遷移して信号が出ればランプは点灯する。すなわち、ランプの点灯と非点灯は、基底状態と励起状態に対応しているわけだ。 「友人ネコ」はランプを凝視して記憶または記録する。たしかに、これも立派な放射性同位元素の状態測定である。ただし、箱は密室であり、ウィグナー先生は外にいるので、ランプの点灯状況を知るには、電話をかけてその友人に聞く必要がある。ただし、その友人ネコは物理学者ではないので、ランプの点灯の意味を知らない。・・・・・「波動関数の収縮」はいつ起こるのか?
1)ウィグナー先生が「友人ネコ」に電話して、ランプは点いたかね?」その点灯状況を知ったときか、2)それとも「友人」がランプを見て記憶に留めたときか? 1)だとすれば、「友人ネコ」とランプが「シュレーディンガーの猫」の代りだから、ランプの点灯と非点灯はウィグナー先生が電話するまでは決まらないことになる。そりゃ変だ! 2)だとすれば、”観測の連鎖”は「友人ネコ」のところで断ち切られてしまう。その次の段階、すなわち、ウィグナー先生が電話をかけるという行為は、放射性同位元素の状態測定に何の影響も与えない。したがって、この操作はその放射性同位元素の状態測定に関する(ノイマン-ウィグナー理論の意味での)量子力学的測定とはいえない。少なくとも、”観測の連鎖”の連結点の均質性が損なわれたことだけは明らかだ。友人が電灯を見た時点か、記録した時点か、先生が電話を受け取った時点か、 それとも結果を知った時点か。・・・・・・誰か教えてください。
●「量子力学入門」並木美喜雄:岩波新書を参考にさせていただきました。20年前の本だがほんとうに面白い。
ユージン・ポール・ウィグナー(1902~1959)1963年ノーベル物理学賞受賞。