2/ 12th, 2010 | Author: Ken |
ギブ・ミー・チョコレート!
バレンタインデーが近づくとチョコレートという響きが記憶を蘇らせる。それは恥ずかしくもあり軽い嫌悪感でもある。
忘れてしまいたのだが残夢としてこびりついているのだ。そう、進駐軍のジープに跨がったGIに ”ギミー・チャコレー!” と叫んだ自分があるからだ。ギブミーチョコレート!ホロ苦く鮮烈に甘く、DDTの匂いと栄養不良のチビがジープを追いかけるシーンを見てしまうのだ。
”カムカムエブリバディ・ハウデユー・ユーデユ・アンド・ハワユー” しょうじょう寺の狸囃子のメロディーでこんな歌を歌ってね。今でも歌えるところが少し悲しい…。
ジョン・ダワーの「敗北を抱きしめて」を読んでいると、なんだ全部知っていることばかりじゃないか!と。
親父に連れられ親戚のお家に行くときなんか、大阪の城東線の廻りは焼け跡で錆びた鉄骨がむき出しで並んでいた。大阪駅の地下道には手風琴(アコーディオン)の傷痍軍人が「異国の丘」を奏で、子ども心に恐ろしさ、哀しさが映った。戦災孤児(浮浪児)、リュックを担いだ買い出しのドタ靴、地上にはGIにぶら下がった毒々しい化粧のパンパン、GIのカーキに包んだ栄養たっぷりの巨大な尻、黒人兵、キャメルとラッキーストライクの匂い。チューインガムとチョコレートに文明の香りを嗅いだ。
…いまハーシーを食べても特別にウマイとも思わないが、あの頃は涙が出るほど美味しかった。そうだ、あの頃から半世紀以上もバレンタインデーになると女性にギブミーチョコレートと言い続けているのだが、いまだにお当たりがない。モテない男の悲哀だ。一人寂しくチェット・ベーカーのマイ・ファニー・ヴァレンタインデイも聞くか。
ずっと前に彼のコンサートに行ったことがある。歳以上に老いさらぼうた亡霊のような男が歌う、だが、声だけ聞くと甘く切なく青春の輝きだ。中性的な少年のような声、彼の歌声もこの日には一際胸に沁みる。
~Stay, little val – en – tine, stay! Each day is val – en – tine’s day.