10/ 25th, 2010 | Author: Ken |
極短小説の愉しみ。
短編小説が好きだ。その中に面白さのエッセンスを凝縮し、冗長ならず鮮やかに切り取る手練の技を見るからだ。それは居合にも似て鞘のなかですでに相手を斬るというアイディアの冴えがあるからだ。もっと短いショートショート、いや極短小説というのもある。
英語では55語で書き上げる。つまり“Fifty-Five Fiction”という訳だ。日本語なら200字以内といったところか。でもジョークや駄洒落では駄目で起承転結、小説の態をなしていなければならぬと。ウーン難しい….。少々恥ずかしいのだがぼくもチャレンジしてみた。
手厳しいご批判をお待ちしています。
最後の晩餐
拝啓、クラリス様 …ハンニバルより 羊たちの悲鳴は止んだかね? 私は人生の最後を飾るに相応しい場所を得たよ。
ディナーの準備も整ったようだ。湯もぐらぐらと沸いている。シャトーデュケムやチェンバロの代わりに極上の
椰子酒とタムタムの響きがある。久しぶりの正餐にみんなも興奮しているよ。酋長も舌なめずりしている……。
「あっ痛い! もっと紳士らしく扱えよ」
釣り師
釣り師の話はでかい。釣り落とした魚はもっとでかい。
「オレがユーコン河で落としたキングサーモンな。ありゃ6フィートはあったぞ」「それがどうした! 僕がマダガスカルの沖で釣った
奴はな。あと僅かのところで糸をかみ切りやがった。ゴンベッサだよ。シーラカンスだ!」「何を言いやがる。ワシがカリブ海で闘った
大物はな。釣り上げるのに三日三晩じゃ。しかし、帰りに鮫どもに食われてしまいよったがな」潮焼けした老人が自慢した。
その時一人の男が店に入って来た。釣り師ならぬ古風な装い、沈痛な顔に太い傷跡、脚は義足だった。みんなは急に黙り込んだ。
「おい、みんなどうしたってんだ。いったい奴は何者だ?」シーッ、「エイハブだ。エイハブ船長だよ!」
酒と薔薇の日々
現代はストレスに満ちている。酒にのめり込んだのもそのせいだ。彼は完全なアルコール中毒者になった。当然会社はクビになった。
家庭は崩壊、浮浪者になりはてた。「ああ、酒が欲しい。酒、酒、酒が……」。譫妄症が現れ幻覚に襲われた。彼は酒のためにひどい
犯罪もおかした。精神病院に収容されそこで死んだ。死の間際に何か一つでも良いことを残そうと思った。
「僕の身体を役立ててください。こんな人生をおくらせないために……」願いは成就した。
彼はいま病理学教室にいる。アルコール漬けの脳標本として。
不眠症
ドリーは眠れなかった。数を数えた。羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……。幾ら数えても睡りは訪れない。
二千九百九十九……。バイオ研究所の博士が牧場主に言った。「三千匹目のクローンの誕生です」