11/ 30th, 2010 | Author: Ken |
乱歩と正史
横溝正史生誕地碑建立6周年記念イベントがあった。主宰は神戸探偵小説愛好曾、代表の野村恒彦氏、講師として名張市から探偵小説研究家の中相作氏が「横溝正史と江戸川乱歩」について語った。まあ、その詳しい事!よくそんなことまで調べましたね!ぼくも自称探偵推理小説なら少しはと身を乗り出すのだが、とてもとても…。
乱歩と正史、読んで字のごとく乱歩の作品は揺れが大きくて乱れている。方や正史は正当派探偵推理小説を目指していた。乱歩の方が一回り年長で、お互いが友人でありライバルであり批判家であり戦前・戦後に亘り巨頭であった。乱歩はアイディアにすぐれ独特のエロティシズム、サディズム、マゾヒズムと異端の美意識や不気味な味を狙った。それは大正から昭和初期にかけてのエログロナンセンス、モボモガの時代風潮、戦争の足音が近づく束の間の享楽の時であった。正史も時代の児である。ネクロサディズムや腐乱死体、屍体愛好癖の犯人など残虐嗜虐趣味の作品が多い。両者とも屍体、義眼、奇形、異常人格など人間に潜む異様性を好んだ。
正史は特に日本の地方田舎にまつわる因習やおどろおどろした不気味さを背景に、日本的陰残さと美意識を根底とし独自の世界を創り上げた……。
また明智小五郎と金田一耕助、この二人の探偵もS・ホームズを始めとする欧米の合理的で怜悧な脳細胞探偵とは少し趣きが違う。それは背景としての文化の違いで、日本では密室なんて設定は難しいし、論理より情緒、普遍性より因習、乾より湿、洋服より和服、靴より下駄の時代であったから「日本的あいまいさの文化」にスタイルを載せたのである。また欧米の推理小説自体がほとんど翻訳されていなかったし、洋行なんてホンの一部の人しか出来なかった。しかし乱歩や正史は洋物を翻訳し読んでいたからこそ、日本風土にあわせた独特の推理探偵小説世界に遊ぶ事ができたのだろう……。誰か戦前に於ける探偵文化論を書いていないだろうか?
写真の二銭銅貨煎餅は乱歩誕生の地名張のお土産である。講演の後みんなで横溝正史生誕地碑を見にいった。夕闇迫るなかメヴィウスの輪からヌエのような怪鳥の叫び、サーカスのジンタの響きが聞こえた気がしたが、気のせいか、果たして……。