2/ 5th, 2014 | Author: Ken |
乱歩幻影
正月に「江戸東京博物館」に行った。暗い展示室を漫ろ歩いていると浅草十二階「凌雲閣」の前に出た。見上げていると急に床が揺らいだ。地震?お屠蘇が効いた?立ち眩み?両眼を押さえてしゃがみ込んだ。ゆっくりと立ち上がり頭を振り眼を瞬いていると風景が一変しているではないか!揺らめく蜃気楼のように夜の浅草十二階の下に立っていたのだ。……黒いインバネスを羽織った背の高い男が話しかけてきた。
顔は細面で、両眼が少しギラギラしすぎていたほかは、一体によく整っていて、スマートな感じであった。そして、きれいに分けた頭髪が、豊かに黒々と光っているので、一見四十前後であったが、よく注意してみると、顔じゅうにおびただしい皺があって、ひと飛びに六十ぐらいにも見えぬことはなかった。その黒々とした頭髪と、色白の顔面を縦横にきざんだ皺との対照が、はじめてそれに気づいた時、何か非常に無気味な………そう、違和感があった。
「あなたは十二階へお登りなすったことがおありですか?ああ、おありなさらない。それは残念ですね。あれは一体、どこの魔法使いが建てましたものか、実に途方もない変てこれんな代物でございましたよ」。
それだけ言うと黒い風呂敷包を持って、背後の闇の中へ溶けこむように消えていったのである。彼は何者なのだ?押絵と旅する男か?遠く曲馬団のジンタの響きが漂ってくる。帝都の暗闇に蠢く陰獣、黄金仮面、怪人二十面相、豹男、道化師、一寸法師、…おどろおどろした乱歩の世界に不気味さと不快さを持ちながら耽溺したものだ。まあ、紅色彩りエログロと奇形的好奇心を猛烈に刺激するのだ。乱歩の美学を表したものは「火星の運河」だろう。白昼夢とも幻影ともとれる小品だが、彼の美意識の告白なんだろう。
…鬱蒼とした森の奥、その暗闇に暗く淀んだ沼がある。岩島があり全裸の美女がいる。その白い肌を爪で掻き毟り流れだす鮮血の赤、それが火星の運河のように、黒い背景に白い肌と無数の赤い溝の対比を映し…こんな世界だ。
十二階「凌雲閣」は明治23年(1900)に建てられ大正12年9月1日(1923)の関東大地震で崩壊した。だから「怪人二十面相」(1936)は登場しないんですね。「怪人二十面相」はアルセーヌ・ルパン、明智小五郎はシャーロック・ホームズを彷彿させるし、少年探偵団はベイカー・ストリート・イレギュラーズだ。昭和31年に始まったラジオ放送では興奮した。テーマ曲は今だって歌えるのだ。
〜ぼ、ぼ、僕らは少年探偵団 勇気りんりんるりの色 望みに燃える呼び声は 朝焼け空にこだまする ぼ、ぼ、僕らは少年探偵団〜
少年探偵団に入会するとBD(Boy Detectives)バッジが貰えるのだ。痛烈に欲しかった!あれから57年…あの少年よ、いま何処……