5/ 20th, 2010 | Author: Ken |
予言
オルダス・ハクスリーの「素晴らしき新世界」1932年とジョージ・オーエル「1984」1949年を読み直してみた。両方とも近未来のSF小説なのだが、「素晴らしき新世界」はまるで現代のバイオテクノロジーを見るようだ。当時、核酸にはDNAとRNAの2種類あることは発見されていたが、DNAが遺伝物質であることが確認されたのが1952年、そして1953年、J・ワトソンとF・クリックが二重らせん構造を明らかにした。1996年にはヒツジのクローン、ドリーが誕生した。
小説では人間は受精卵の段階から培養ビンの中で製造・選別され、α、β、γ、δ、εと階級ごとに知能も容貌も体格も違う。まるで遺伝子操作によるデザイナー・ベイビーのようだ。彼らは睡眠時教育で自分の階級、社会に全く疑問を持たないように教育され、人々は個々の生活に完全に満足している。落ち込んだときはブロザックのような「ソーマ」と呼ばれる薬でハイになれるし、人々は常に安定した精神状態であるため、社会は完全に秩序を保っているている。「すばらしい世界」は「愚者の楽園」である。そのなかでβでありながら蛮人保存地区で生まれ育つたジョンは文明社会に行き、挫折し自殺する….。 現にいまぼくたちが食べている肉も野菜も遺伝子による選別がなされている。ES細胞、iPS細胞の研究も進んでいる。遺伝子の螺旋階段を登るのように「すばらしい新世界」を目指してきた人間、その「天国への階段」の先にはどんな未来が待っているのだろうか?
「1984」は偉大な兄弟・ビッグ・ブラザーのもと、見ざる、聞かざる、言わざるの安定した社会である。「偉大な兄弟」は国民が敬愛すべき対象であり、到る所に「偉大な兄弟があなたを見守っている」(BIG BROTHER IS WATCHING YOU) というスローガンともに彼の写真が張られている。国民は毎日、テレスクリーンにより監視下に置かれ、私的生活は存在しなくなっている。それに疑問を持つ事は許されないのだ。
戦争は平和である (War is Peace) 自由は屈従である (Freedom is Slavery) 無知は力である (Ignorance is Strength)と。
まるで現代のマスコミとインターネット社会を彷彿させる。知らなきゃ幸せなんだよ。ほらケータイとゲームで遊びなさい。でも毎日、知らないうちに監視カメラに写され、高速道路でも、免許証、保険証、パスポート、ドメイン、GPS、他にもいっぱいいっぱい、個人情報なんて集めようと思えば幾らでも…。それにしても優れたイマジネーションは未来を予言する。
行く末はユートピアか、それとも反ユートピアか?
●「すばらしい新世界」オルダス・ハックスリー、 松村 達雄 訳:講談社文庫
●「1984年」ジョージ・オーウェル、新庄 哲夫 訳:ハヤカワ文庫
●「未来世紀ブラジル」1985 監督・脚本テリー・ギリアム(あのモンティパイソンのメンバー)。1984やカフカが下敷きにある。
音楽:マイケル・ケイメン、Bachianos Brazil Samba。これを書いていると「神戸祭」でオフィスのまわりが無茶苦茶うるさく騒がしい。何がサンバだ。
….率直には喜べない。祭りとは民族の、民衆の、庶民の、人間の、畏怖の、喜びの、土着の、長い時間から生 まれたアニミズムみたいなものが「心」だろう。無理に行政とその取り巻きが作り上げた祭りとは…。