1/ 16th, 2010 | Author: Ken |
何でも十傑……恐怖怪奇短編。
「恐怖は人間の最も古い、最も強い感情だ」H.P.ラブクラフト…これほど技巧を要する小説はないのではないか、近代恐怖小説はE.A.ポーを嚆矢とをもってするが、名作と呼ばれるものは洗練の珠玉である。ラブクラフトのクトゥル神話系は邪神や物の怪だし、スプラッターは美しくない。やはりゴシック・ロマンや怪談のおどろおどろしいところがいい。
★「猿の手」W.W.ジェイコブス:猿の手は三つの願いを聞いてくれるが…。かってのオーソン・ウェルズ劇場の第一話じゃなかったか?ほんとうに良く出来た話だね。映画「マタンゴ」の原作ウィリアム・ホープ・ホジスンの「闇の声」もいいね。
★「たんす」半村良:夜中になると一人ずつたんすの上に座り虚空を見ている…。たんすの取手がカタンカタンと聞こえる。おとーよー、お前のたんすをもって来たよー。何が見えるって?あんたも座ってみたら見えるんだよ。
★「レミング」リチャード・マシスン:1ページに足りない短編であるが映像がリアルに浮かびあがる。連合軍が撤退した跡のダンケルクの海岸を思い出すね。
★「早過ぎた埋葬」E.A.ポー:ポーにはたまらない耽美性がありますね。古典の名作中の名作。「赤き死の仮面」なんてそれはもう!リチャード・マシスンの「墓場からの帰還」も同テーマ。
★「人間椅子」江戸川乱歩:奥さま、いまお座りの椅子は…。ゾーッとするとはこのことだね。
★「炎天」W.F.ハーヴィー:うだるような日、墓石に自分の名が刻まれていた…。
★「青頭巾」上田秋成:瞼に瞼をもたせ、手に手をとりくみて日を經給ふが、終に心神みだれ、生きてありし日に違がわず戯れつつも、其の肉の腐り爛れるを吝て、肉を吸骨を嘗て、はた喫いつくしぬ。…この辺は鬼気迫るね。江月照松風吹 永夜清夜何所為(こうげつてらししょうふうふく えいやせいしょうなんのしょいぞ)そもさん夜何所為ぞ!喝!「菊花の契り」「吉備津の釜」「浅芽が宿」も忘れ難いね。
★「ポインター氏の日録」M.R.ジェイムス:カーテンが揺らめき、安楽椅子から垂らしたした指先に触れたものは…。
★「家のなかの絵」H.P.ラブクラフト:雨宿りに田舎の廃屋のような家に入ると一冊の挿絵本が開かれていた…。
★「耳なし芳一」小泉八雲:身体にお経を書く、これは不気味。シュワルッツネッガーの映画「コナン」で真似していたね。
そして「因果話」…奥方が臨終に殿寵愛の女を呼んで、庭の桜を見せておくれ。おぶった途端両乳房を握りしめ「とうとう願いがかなったぞえ、ああ嬉や」とこと切れた。手は乳房と一体になりどうしても取れなかった。女の胸には黒く萎びた手首だけが残され、夜になると乳房を責め苛んだ、彼女は尼になって国々を放浪したという…。