12/ 18th, 2009 | Author: Ken |
吉村昭
吉村昭が好きだ。初めて知ったのは「星への旅」ではなかったか。それより「戦艦武蔵」「陸奥爆沈」「海軍乙事件」など太平洋戦争を題材にしたドキュメンタリータッチの歴史小説を貪るように読んだ。「蚤と爆弾」で731部隊のことも知った。戦争の裏面に名も無き多くの人間が生きた事実が浮かびあがる。確かに松本喜太朗の「戦艦大和・武蔵 設計と建造」など建艦技術としての本は知っていたが、人間を視点で書かれた本は新鮮だった。東京初空襲の空母を発見し捕虜となった人の「背中の勲章」や「逃亡」「空白の戦記」。いつしか戦史の証言者がいなくなったことにより戦争は描かなくなったが、明治維新前後の医学、初めて外国を見た人々の漂流記、知を求め続ける人々などを硬質な文体で描いてゆく。徹底した取材を通じて見た吉村昭の眼は、情感を込めない乾いた表現である。だからこそそこに生きた人間がより濃く浮かび上がるのだ。死に際も吉村昭らしい最後だった。