3/ 25th, 2014 | Author: Ken |
名も無き絵
この絵に初めて出会ったのは十年ほど前だった。
友人の切り絵作家が「カルヴァドスを美味しく飲ませる店があるから….」と。
その時カウンター横の壁に架かってあった。セピアを基調とした憂いを帯びた女性の顔なのだが、何かダ・ヴィンチを彷彿させる
古典的な様式だった。「誰の絵?」「分からないのですよ。銘も何もないのです」。よく見ると髪や衣服、背景は素早いタッチで
現代的なのである。俯向き加減の顔は微妙な陰翳によって描かれ…..スフマート(Sfumato・イタリア語で「煙」を意味する
フモ(fumo)という言葉)技法だろうか? 深み、ボリュームを色彩の薄い層を何度も塗り重ね「くすんだ」階調が素晴らしい。
ダ・ヴィンチ風だと思ったのは『聖アンナと聖母子』と角度が似ているからだ。ルーブルにある『聖アンナと聖母子』より、
ナショナル・ギャラリーの黒チョークで描かれた方が好きだ。その慈愛の微笑みと超絶技巧のデッサン力に見とれ
小一時間も佇んでいただろうか…..。
ダ・ヴィンチやミケランジェロの素描には驚嘆する。まさに天才のなせる技だ。油絵のように塗り重ねるのではなく、
対象を見て取って頭の中でイメージを作り、それが腕や指の動きとなって紙の上に写しとる。
その動き、スピード、圧力、デッサンの方が迫力と生々しさをもって迫るのだ。
人間だけが成せる技だ。天才たちの頭脳のイメージが創りだしたものだ。
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この絵を飾ってあったお店が閉めることになった。「この絵はどうなるの?」「よろしかったらお持ちください」
「えっ!大事にお預かりします」。
どなたかこの絵の由来を知らないだろうか?