10/ 21st, 2015 | Author: Ken |
吠える男
時は1920年代後半…私はボストン児である。ヨーロッパを自転車で旅していた。ドイツ・モーゼル河畔で酷い熱を出し記憶を失った。
古い僧院の藁の上で気がつき、一人の修道僧が看病してくれていた。・・・奇妙な事に夜になるとどこからか泣き、吠え、喚く声が夜通し聞こえるのだ。修道僧は私には聞こえません。熱のためです。・・・ある夜、部屋を抜け出し吠え声の場所を探した。・・・窓から覗くと裸の男が泣きわめいていた。・・・後ろに総院長が立っていた。「その男は気が狂っているのです。悪魔なのです」。・・・私は鍵を盗み男を解放してやった。・・・私はボストンに帰り恰幅がつき穏やかな日々を送っていた。その頃から新聞に、ブラウナム・アム・イン生まれの男の記事が載るようになった。あの吠える男だ。・・・(ブラウナム・アム・イン=ヒトラーの出生地)
●叫ぶ男 ( The Howling Man )チャールズ・ボーモント著/小笠原 豊樹・訳「夜の旅その他の旅」(異色作家短編集)早川書房 1961
もう何十年も前に読んだのだが、また本箱をかき回してみた。上手い!何と言う技の冴えだ。「奇妙な味」の技巧小説である。ボーモントはレイ・ブラッベリに師事し38歳の若さの1967年に若年性アルツハイマーでこの世を去った。同じく「隣人たち」の意表を突くサスペンス。これは「侵入者」という映画になり本人も出演している。・・・こんな短編を読むとほとほと感心しますね。
●「誕生と破局」ロアルド・ダール著/開高健・訳「キスキス」(異色作家短編集)早川書房
オーストリーの辺境の街で一人の男の児が産まれた。母親はいままで三人の子を幼くして亡くしていた。「先生、助かりますよね・・・どうか生かせてください」「大丈夫ですよ丈夫に育ちますよ。ところでお名前は何と?」「アドルフですわ、きっと育ちますよね」。
実話を元にしているとはいうが、この話作りの技巧といったら!怜悧で皮肉でユーモアと辛辣と、残酷で読者をいたぶるエンターテインメントと・・・