7/ 10th, 2011 | Author: Ken |
地中海の舞踏・Mediterranean Sundance
あの革新的で先端であったジャズも懐メロと化し、通俗という陳腐な音楽になってしまった。いまやバーのBGMにすぎない。ああ激しく熱く知的でスリルに満ち、いままで聴いたことがない音楽はないものか…..。 80年代初期、午後4時頃であった。仕事場に友人から電話があった。 「今、今すぐFMをかけて!急いで!」。慌ててラジオをつけた。凄い、このギターは何だ!… 熱い、そして超絶技巧、熱波が強烈に迫って来る。終わるとすぐに友人に電話をした。「いいねー、凄いね、演奏者は誰?」「いいでしょう、FM局に電話して聞いてみる」。それがパコ・デ・ルシアのスーパー・ギター・トリオによる「地中海の舞踏」だった。
そうこうするうちにパコ来日という小さな記事が目に留まった。尼崎のアルカイックホールだ。友人と連れ立って、期待に胸弾ませいそいそと出かけた。「パコ・デ・ルシア with チック・コリア」だ。ぼくはあまりチック・コリアは好みじゃなかった。まあ、マイルスとのセッションや「リターン・トゥ・ホーエバー」もレコードは聴いてはいたし、ライブなんかも行ったことはあるのだが…。しかし彼がモーツアルトなんかを演奏するのはあんまりいただけないものだった。だってクラシックの演奏家のほうがはるかに繊細で美しい。またロン・カーターのバッハだって? … P・カザルスやA・ビルスマの方がなんたって。…チックは正直にパコと合っていなかった。でも、かぶりつきでパコの魔術のような演奏に興奮した。
それからだ。パコが来日するたびに出かけた。その時その時でメンバーも変わりクラシック曲「アランフェス」や、より前衛的なフルートを加えたセクステット、激しいフリーな即興演奏と音楽の可能性を聴かせてくれた。当時はまだLPの時代だ。やっとCDが当たり前になり同じものを買い替えたり無駄なことをしたものだ。ぼくが一番好きなのはジョン・マクラフリン、アル・ディ・メオラとのスーパー・ギター・トリオ「地中海の舞踏」(これはメオラに替わりラリー・コリエルで当時RDでしか映像はなかった)。パコ、この天才は1967年にソロアルバムを出し、1973年の「Fuente y caudal・二筋の川」でビッグ・ネームとなった。ぼくが思う最高は「シロッコ」だろう。噴出する炎、フレーズ、音圧、まさに熱風である。激しくかき鳴らすコードや疾風のような高速パッセージ、音の奔流である。力強い響き、弦が千切れんばかりの強烈な右手、それを見ているだけでも恍惚となるのだ。ふやけて退屈なばかりのイージー音楽が多い中で、パコの真摯さと過剰なほどの音、新しい音楽にチャレンジする姿勢に酔ったのだ。そこにフラメンコ、フージョン、モダンジャズを超えた音楽を見たのだ。2011年、最近聴くのはまたバッハばかりだ。聴くものがない!ヘービーメタルも過去のものだし、レディー・ガガみたいな漫画は趣味じゃないし、心に迫ってくる音楽はないのだろうか。