2/ 21st, 2011 | Author: Ken |
地球の長い午後….Sense of Wonder
地球の長い午後
太陽は老齢期を迎え赤色巨星になりつつあった。地球の自転は停止し片面は灼熱の温室、片面は凍てついた永遠の夜の世界だ。動物はほんの僅かな種を残し、一本のベンガルボダイジュが大陸を席巻し覆い尽くしていた。動物を模倣した奇怪で異形の食肉植物たちが生存競争の死闘を繰り返す悪夢のような世界である。おぞましくも顎と歯ばかりのヒカゲノワナ、無数の足で這い回るヒルカズラ、太陽光線を集めレンズ武器を使うヒツボ、トビエイ、ハネンボウ、ダンマリ、土吸鳥、フウセンイブクロ…。知恵さえ無い食肉植物が凶悪で熾烈な闘争を繰り広げているのだ。なかでも圧巻はさしわたり1哩に達する植物蜘蛛ツナワタリ、月に糸を張り渡し行き来しているのだ。
….人類は細々と生き長らえる絶滅寸前の生物で、緑色と化した肌、身長は五分の一ほどに縮み、知性は減退している。この世界で部族を追われた主人公、少年グレンの彷徨と冒険。そのグレンの頭に知能を有するキノコ、アミガサタケが取り憑く。寄生し菌糸を延ばし人間の脳と一体になりグレンをコントロールするのだ。かつての人類の知恵も文明もアミガサタケが人間の脳に侵入し進化を授けたものだという。同行するのはポイリー。グレンと同じ部族の少女だったが無惨な死を遂げる。そしてヤトマーという牧人族の女。
また黒い口というセイレーンのように抗う事のできない歌で食物を引き寄せる底知らぬ口、巨大な樹木から尻尾で繋がれた魚取りポンポン族。彼らを乗せた船は昼と夜の境界である氷の小島に流れ着くがアシタカという移動植物の撒種行動を利用し大陸に戻る。この黄昏地帯でヤトマーはグレンの仔を産む。そしてソーダル・イー/ウミツキと呼ばれる魚かイルカのような動物は、生気を失った人間の従者に自身を担が運ばせている。それは地球終焉の予言を広めるためだ。策略によりアミガサタケはグレンの頭から取り去られウミツキの頭に被せられる。
… 地球の生命は最終期を迎え生命は胞子に凝縮された。それは竜巻か柱のように吹き上がり、銀河流の奔流に乗り新たな生命の地へ向うのだ。この地球もかってカンブリア期に銀河流により撒種されたものだ…。
おどろおどろしくも驚異に満ちた想像力、ブライアン・オールディスのイマジネーションは留まるところを知らない。ファンタスティックで奇怪な妄想から生まれたような陰残で異様エネルギーに満ちた生命体。またイマジネーションは「美」でもあるのだ。SFとは驚きの絵巻物であり読む者に映像を喚起させるのだ。ぼくの勝手な好みだが「面白さの三大SF」を挙げよ!と言われると躊躇無く「重力の使命」ハル・クレメント「宇宙船ビーグル号の冒険」A.E.ヴァン・ヴォクトー、そして「地球の長い午後」と答える。こんな面白いSFはない。まさにセンス・オブ・ワンダーなのだ。
●「地球の長い午後・ Hothouse」「The Long Afternoon of Earth」(米):1962年
Brian W. Aldiss・ブライアン・オールディス 著 伊藤典夫 訳/ハヤカワ文庫