2/ 24th, 2012 | Author: Ken |
奇妙な果実
「奇妙な果実・暗く悲しい歌」これはビリー・ホリディの自伝である。白い山梔子の花を翳し、レディ・デイという賞賛と歌姫としての絶頂を極めながら麻薬で廃人となって44歳の短い生涯を終える。10代半ばの売春婦の母親から生を受け、幼児期の虐待、レイプされ売春で逮捕され辛酸のなかで歌手として成功し、麻薬に溺れ刑務所にも入り、ライセンスさえ剥奪される。おまけに稼いだ金はヒモやギャングに吸い取られ…..。まるで作られたストーリーのような成功と破綻人生の生き方だった。
初めて聴いたとき、ぼくがまだ若かったせいか下手な歌だと思った。なにかメロディーを壊しているようなフェイクやフレージングに違和感を感じたのだ。ところが聞き込むうちにのめり込むようになった。ポピュラーソングやブルース形式じゃないのに、何を歌っても翳りを帯びたブルースに聞こえ、ブルージーななかにコケットリーな一面や清澄さを見せ、暗い情念というか人を魅了する不思議な力が伝わってくるのだ。
そうだ!これは彼女自身が楽器でありインプロバイゼーションもアドリブも譜割もリズムもフレージングも彼女自身の身体から滲み出す音楽なんだ。誰の歌でもなくビリー・ホリディのエモーションなんだ。そう、”Lover Man” や “Don’t Explain” を聴いてほしい。生涯、男に騙され翻弄された女の、哀しさ、弱さ、嘆き、優しさの叫びなのだ。そしてジャズ史に残る名作 “Strange Fruit”(奇妙な果実、ルイス・アレン作詞作曲/1939)。
残酷で恐ろしくも悲惨、たまらなくなる惨い風景。南部でリンチされ、木に吊るされたた黒人奴隷。それをビリーは淡々と歌う。胸奥に隠された怨念、怒りと痛み。それを押し殺すように歌う。耳を覆い逃げ出したくなるような恐い歌だ。
Southern trees bear strange fruit 南部の木には奇妙な果実がぶらさがる
Blood on the leaves and blood at the root 葉は血染まり、根にまで血を滴たらせ
Black bodies swinging in the southern breeze 黒い死体は南部の風に揺らいでいる
Strange fruit hanging from the poplar trees. まるでポプラの木に下がる奇妙な果実のようだ
・・・・・・晩年は、麻薬と酒で声も衰え、音程もリズム不安定、皆から見放される。
冠絶した不世出のジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイ。この胸に強く迫る歌声は何なんだろう。それはテクニックを超えたところにある歌心とメッセージと彼女の魂そのものである。
●「奇妙な果実」ビリー・ホリデイ自伝 油井正一・大橋巨泉/訳:晶文社
●「奇妙な果実・映画ビリー・ホリデイ物語」1972・監督シドニー・J・フューリー、出演/ダイアナ・ロス
● 「レフト・アローン」1960/ビリー作詞、マル・ウォルドロン作曲、ビリーのパートをジャッキー・マクリーン(as)が切々と歌う。
ビリーの最後の伴奏者として、ビリーへの哀悼の意を込めたアルバムとして、世間の評価は恐ろしく高いが、果たして?これは神話じゃなにのか?。マルの控えめなで内省的な演奏がひねくれた暗い世代に受けたのか?さほどのジャケットとは思えないが、
ビリーへの皆の思いが名盤にしたのでしょうね。