4/ 9th, 2013 | Author: Ken |
廃墟の美。… 滅ぶからこそ美しい。
人は何故廃墟に惹かれるのだろう。最近では長崎半島の沖に浮かぶ「軍艦島」や神戸にある「摩耶観光ホテル」などが有名だ。栄枯盛衰、興亡と光芒、かってが栄耀栄華が壮大であるほど廃墟は沈積した寂寥を漂わせるからか。人も死ねば廃墟となるのか…。
「平家物語」は滅びの美を語り、「方丈記」は時の流れの無情さを写す。また…. 鎌倉時代の「九相詩絵巻」には美しい女性が死に体が腐敗風化していく順に九相が描かれている。変色し、膨張し、腐敗し、鳥がついばみ、獣が喰い、ついには白骨の野ざらしになる。
…いろは歌も涅槃教も諸行無常と…..。谷崎潤一郎の「少将滋幹の母」には、美しい妻を失った老大納言が、未練を絶つために都の外れに行き 死体を眺める。それは不浄観という修行で、いかに美しくとも死んで朽ちればば醜くなることを 悟ろうとするものだ。
…一度生を享け、滅せぬもののあるべきか …されば、朝には紅顔ありて夕には白骨となれる身なり。…野外に送りて夜半の煙となし果てぬれば、ただ白骨のみぞ残れり。
廃墟に拘った画家としては16〜17世紀のモンス・デジデリオだろう。夢の中の宮殿、崩壊する神殿、地獄の炎、時間が凍り付いた建築物はいかなる幻想から生み出したのか。同時代のピーテル・ブリューゲル「バベルの塔」を何度も描いている。18世紀イタリアの画家・建築家であるジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージもローマの古代遺跡の版画で新古典主義の建築に大きな影響を与えた。その流れがナチの建築家アルベルト・シュペーアだ。ニュルンベルグ党大会の会場設計と演出、これはリューヘンシュタールの「意志の勝利」に見る130本のサーチライトによる光の大聖堂。彼は「廃墟価値の理論」を持ち込み、ローマの廃墟のように1000年後の遺跡さへも美しいという巨大な建築群を建てたが敗戦とともに愚行と嫌悪の声に埋もれた。そしてドイツロマン主義を代表するカスパー・ダーヴィト・フリードリヒだ。古代の巨石墓、崩れた僧院、墓地、枝がのたくる樫の木、荒涼と静寂、その風景は宗教的挙崇高さへ感じる。
映画監督のA・タルコフスキーの描く廃墟も美しい「ストーカー」「ノスタルジア」、それらは記憶、魂と救済へのオマージュだ。人は何故廃墟に惹かれるのか? 死への不安か? …人は必ず去らなければならない無常観か?… 時の鑢が現世を削るペシミズムか?
土井晩翠作詞・瀧廉太郎作曲「荒城の月」〜 今荒城の夜半の月 変わらぬ光誰がためぞ 垣に残るはただ葛 松に歌ふはただ嵐〜
詩人立原道造は「優しき歌」の「薄明」で
…はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ うつろふものよ 美しさとともに滅びゆけ!…と。何かシューベルトが聞こえてきそうですね。