12/ 4th, 2010 | Author: Ken |
正史 vs. 乱歩
横溝正史と江戸川乱歩。この二人の対決は金田一耕助対 VS.明智小五郎とも言える。二人とも戦前戦後にわたってライバルであった。
金田一は雀の巣みたいな頭にお釜帽、褪せたセルの袴に下駄履きといっただらしない出で立ちで、推理に集中すると頭をグシャグシャかき回す。……方や明智は最初はダサイ書生スタイルであったが洋行してからS・ホームズの影響かスーツ姿の紳士になった。サヴィルローで作ったのか?探偵を比較するのも楽しいがやはり両者とも日本生まれであるから西欧的合理主義と帰納的かつ演繹的推理は泰西の探偵に比べれば甘い気がしますね。だって状況証拠じゃ裁判に勝てないもの…。
そして怪人二十面相はリュパンのイメージそのもだし、少年探偵団はベイカーストリート・イレギュラーズからのいただきだ。まあ文句はこれくらいにして乱歩の面白さは発想・アイディアの斬新さである。思いつくままに「人間椅子」暗闇で厭な感触のものに触れたような不快感と何か生理的にザワザワさせますね。「屋根裏の散歩者」覗きの世界と快楽。「火星の運河」深閑とした暗い森の奥に黒く重い池、その真ん中の島にいる私。体を切りさむ運河のような傷口から鮮血の赤。この妖しき耽美的自虐美。「虫」ウェーッ!」「芋虫」陰残、最近の映画の予告編を見ただけでげんなり、何か制作意図がポルノでたぶんに反戦なんてクサいものを持ち込んだんだろう。見ていないので偉そうには言えないが映画の金を払うのは俺だぜ。……「鏡地獄」いまならCG、3Dでもっと凄い。
「押し絵と旅する男」蜃気楼のような異次元とフェティシズム。「パノラマ島奇談」今のテーマパークに乱歩が行ったとしたらこりゃパノラマ島以上だ?「防空壕」東京の夜間空襲下、ネロ皇帝が見たような都市の炎上、その興奮と美。逃げ込んだ防空壕での出来事、奇妙な味の短編である。ああ切りがない…..乱歩の功績として海外ミステリーのアンソロジーが素晴らしい。「世界短編傑作集・1〜5」世界の珠玉の短編セレクトの眼、さすが乱歩。ウォルポール「銀の仮面」なんてこれで知った。
そしてミステリー歴代20傑(エラリー・クイーン編20傑もいいですね)納得です。横溝正史となると「本陣殺人事件」「獄門島」「八墓村」「真珠朗」….その他短編も結構読んでみたのだが何か記憶に留まらないのですね。やはり正史には生真面目さがあって乱歩のような奔放な飛躍がないのですね。でも日本の田舎の因習や人間の欲望とおどろおどろ感、ネクロサディズムと極彩色の美、…..仮面に隠れた本当の顔は?….映像的ですね。
このあいだ「乱歩と正史」の講演会に行った。…..もうぼくは乱読の楽しみだけにしておこう。あの人たちの詳しさと豊富な資料、作品の読み込みには所詮敵いっこないんだから。