4/ 30th, 2016 | Author: Ken |
死戦を越えて、苦戦を越えて。
長い間、見たい観たいと思っていた映画がある。そして50年の時が過ぎ、やっと手に入れた。「独立機関銃隊未だ射撃中」(1963東宝・監督:谷口千吉、脚本:井出雅人、主演:佐藤允、三橋達也、太刀川寛、他)。ぼくは当時19歳で和歌山に入院していた。病院を抜け出し映画館に行った。黒澤明「天国と地獄」との二本立てだった。戦争末期、ソ満国境守備隊、侵入する圧倒的なソ連軍、映画のほとんどは狭いトーチカの閉鎖された空間だけである。トーチカとはロシア語で点を意味する。つまりベトンで固めた点拠点に過ぎない。・・・いま改めて見るとスターリンのオルガン(カチューシャ・ロケット砲)や特撮はチャチだし、ソ連軍がアメリカ軍のように日本の音楽を流して投降勧告をしたのだろうか?またIS-2戦車が参戦した事実もない。わざとベーテー戦車(ノモンハン時の主力ソ連戦車BT-5)という所が当時の空気を知っている脚本の巧さなのだ。そして92式重機関銃の詳細な取り扱い、30連保弾板と給弾、銃身交換などの描写や対戦車・九九式破甲爆雷のシーンはなかなかである。そして、監督も役者もスタッフ全員が戦争を越えて来た重みが、セットやミニチュアのそれらを覆い尽くす凄みがある。特に貧しい農民出身の渡辺上等兵(佐藤允)がいい。千人針で作ったシャツを着、背には武運長久の文字、五銭と十銭玉を縫い付け、死戦を越えて、苦銭を越えて、と。
独立機関銃隊未だ射撃中
独立機関銃隊未だ射撃中
悲しい銃後の女たちの願いである。一針々、出征する兵士の母や妻が街頭に立って、道行く女性千人に糸目を結んでもらい武運長久を願った。与謝野晶子の「君死にたまふこと勿れ」は強い女だが、大塚楠緒子の「お百度詣」はあまりにも日本的な願いであり涙を誘う。
ひとあし踏みて夫(つま)思ひ、 ふたあし国を思へども、 三足ふたゝび夫おもふ、 女心に咎ありや。
朝日に匂ふ日の本の、 国は世界に唯一つ、 妻と呼ばれて契りてし、 人も此世に唯ひとり。
かくて御国と我夫と、 いづれ重しととはれれば、 たゞ答へずに泣かんのみ、 お百度まうであゝ咎ありや。