2/ 10th, 2011 | Author: Ken |
海底二万リーグ。
「海底2万リーグ」(1869・明治2年/日本紹介明治11年)ジュール・ベルヌ。….子供の頃から何回読み返したことだろう。深海という神秘の世界で冒険につぐ冒険…。時は1866年、日本では幕末の動乱、列強による植民地支配、近代科学と工業化の波浪が押し寄せ、砲艦が世界の政治を牛耳っていた。その時代背景を映したハードSFだ。潜水艦ノーチラス号。全長70m、全幅8m、排水量1500t、艦体は複隔式、外鋼板は6.2cmの鋲打ち構造で394t、機関はナトリュムより得る電気力、推進機は1軸、スクリュー直径6m、水中最高速力40ノット以上、潜水深度1.5万m、後続力無限、武器は艦首の衝角….。と現代の原子力潜水艦も真っ青だ。このスーパー潜水艦に男の子が夢中にならないわけがない。
追跡、遭遇、捕虜、トレス海峡での座礁と蛮人、海底狩猟、スエズトンネル、海底火山、アトランティスの廃墟、南極点、大タコとの死闘、圧政者への復讐とネモ艦長の苦悩、殺伐、そしてメイルストロムへ……。
1954年にディズニーの映画が封切られた。ぼくはほんの子どもだったから、兄に頼み込んで遠い町まで連れていってもらった。めくるめくと言うか恍惚となりましたね。ぼくは映像に衝撃を受けたのだ。燐光を発して迫る怪物のような潜水艦、海底洞窟のシャコガイから巨大真珠が、乗組員の海底での葬送シーン、蛮人の襲撃には艦体に電気を流し、大イカとの死闘、窓はカメラの絞りのように開閉し、潜水器具も大時代がかっている。おまけに艦長が沈痛な顔でオルガンを演奏するのはバッハのトッカータとフーガだ……。
ノーチラス号も涙滴型のスマートなのを想像していたのだが…….何とも古めかしい鋼鉄の凄みなのだ。大人になって分かった。そうヴィクトリアン的美意識でデザインし、鎧のような艦体、インテリアも大時代そのもの。….ウーン、ハリウッドの映画つくりに感心しますね。監督はリチャード・フライシャー、ネモ艦長にはジェームス・メイスン、銛打ちネッドはなんとカーク・ダグラスだ。
さてノーチラス号は実現できたのだろうか?
●1900年、「海島冐險奇譚 海底軍艦」日本SFの草分け押川春浪作。1963年「海底軍艦」東宝:「轟天号」艦首の巨大なドリルが…。
●1908年、英国最新鋭機密潜水艦ブルースパーティントンの設計書紛失事件。シャーロック・ホームズが解決。原作コナン・ドイル。
●1940年、日本の試験艦第71号艦は1940年に21ノットを達成、その姿は驚くほど近代的だ。甲標的(特殊潜航艇)は24kt。
●1945年、終戦間近に伊号201潜水艦水中高速艦も作られ速力19ノットを記録。同じ頃ドイツでも革新的な UボートXXI型が作られ、大量の二次電池を積んだのでエレクトリックボートと呼ばれた。水中17.5ktだった。他にもワルタータービンの試作艦も作られた。魚雷では旧海軍の酸素魚雷が60ktを達成、現在ではスーパーキャビテーションと呼ばれる薄い気泡を発生させロケットモーターで200ktに達するルシクヴァルという魚雷もある。
●1953年、アメリカは戦後実験艦アルバコアで33ktを記録。そして1954年には世界初の原子力潜水艦ノーチラスの建造、命名は海底2万リーグへのオマージュである。1958年には潜航状態で北極点を通過。
●1971年、旧ソ連アルファ型原子力潜水艦705型、43kt。…..それからはもうトライデントミサイル、巡行ミサイル、タイフーン級だの夢も希望もない殺伐機械になってしまった。ひとたび発射すれば、それは人類と地球、その歴史を破壊する。愚行の極みである。
ディーゼルエンジンと電池の通常動力潜水艦も造り続けられ日本も現在16隻保有、機密だが超張力鋼の耐圧殻、動力もスターリングエンジン、燃料電池も研究(実用化)しているようだ。水中速力も潜航深度も機密だが、後続力以外は原潜に匹敵するらしい。
● 安全潜水深度は各国とも機密だがNS80、NS120、HY130という高張力鋼 耐圧殻を備えている。まあ400〜500mなのだろう。
単に潜るだけの潜水船を対象とすると、世界最深の潜水記録トリエステ号がマリアナ海溝で記録した11,000mが最深記録だそうだ。
● ノーチラス、日本ではオウムガイ、英名はノーチラス(Nautilus)で、ギリシャ語の水夫に由来するという。ガスの詰まった殻内部の容積を調節して浮き沈みする仕組みは進化の妙である。その断面の美しいカーブときたら、時々どこかの応接間なんかで….。