11/ 10th, 2010 | Author: Ken |
白か黒か、刃先一閃。
あらためて成田一徹氏をご紹介しよう。彼は切り絵作家である。道具は白黒の紙とカッターナイフだけ。超シンプルである。
切り絵といえば、朴訥で、民話的で、版画的なのを彷彿させるが、彼はそこに一線を画すのである。より先鋭に、より微細に、より内面的に…。そして現代という時のなかで生きている人間を描きたいのである。そこには市井の片隅で目立たず真摯に生きてきた「生という皺、顔という刻、時間という証明」を切っ先に込めるのである。彼の苦闘ぶりを拝見すると、よくもまあ取材にそれだけの労力を厭わないねと思わず声をかけてしまう。「嘘はつけませんから…。根本を掴めばそれからは飛躍と展開の創作は…」。
ナルホド、それで夜毎のカウンター巡り?「….いやいや反芻ですよ。逡巡ですよ。締切に追われ纏まらない七転八倒が飲ませるのですよ」。そうかなー、まあ分かる気もするけど….。「だから若い人の顔は切れないいんですよ。扁平なんですよ。顔ににじみ出る人間性というか時間というか、喜びも悲しみも幾年月が無いんですよ」。そういえば「東京シルエット」にしても「神戸の残り香」にしても消えて行く場所、建物、技、仕事、人間。逝きし世の面影にこだわっていますね。そして彼は演歌が好きだ。「うーん、生きているというどうしようもないこと。それを格好つけないむしろ下世話でダサく生臭い吐息ね。ぼくだってそんなもんだから…」。謙虚な人だ。彼と知り合ったのは神戸大震災の少し前だった。それ以来、神戸で東京でバーのカウンターで語ることが多い。彼は単なるイラストレーターじゃない。じゃアーチスト?そんなことを言えば酔いで赤い顔をますます赤くするだろう。エッセイスト、それもある。アルチザン、ン、それも。…..飲み友達? それが一番。ひどいはにかみ屋で真面目すぎる人だ。だから友人である。
● 「東京シルエット」切り絵・文/成田一徹:創森社 ● 現在神戸新聞夕刊に月2回「新・神戸の残り香」を連載中
★上の絵の成田さんの肖像は,ぼくが成田風に勝手に作ったものです。お許しください。背景は本物からです。