12/ 22nd, 2009 | Author: Ken |
美はしきもの見し人は…。
美はしきもの見し人は、 はや死の手にぞわたされつ、
世のいそしみにかなはねば、 されど死を見てふるふべし 美はしきもの見し人は。
愛の痛みは果てもなし この世におもひをかなへんと
望むはひとり痴者ぞかし、美の矢にあたりしその人に愛の痛みは果てもなし。
げに泉のごとも涸れはてん、 ひと息毎に毒を吸ひ
ひと花毎に死を嗅がむ、 美はしきもの見し人は げに泉のごとも涸れはてん。
アウグスト・フォン・プラーテン 生田春月訳
透麗、たおやか、恥じらい、優雅、気品。ゼピュロス(西風)の息吹く微風の赴くままに、貝殻に乗った乙女がこの岸辺に流れ着いた。ヴィーナスの誕生だ。サンドロ・ボッティチェッリ1485年頃。この女性を初めて見たのは何時の頃だったのだろう。美術の教科書には必ず載っていたしAdobe Illustratorのアイコンで散々見て来た。いつのまにかCGの絵になり品性が損なわれたがCSになり消えてしまった。モデルは「麗しのシモネッタ」と讃えられたフィレンツェ一の美女、シモネッタ・ヴェスブッチ。二十三歳で夭折した彼女の病名は肺結核。焦点の曖昧な眼、微かに紅潮した頬、白い肌、これらは全て肺結核の症状を現していると言う。美人薄命とはこのことか!「何と青春は美しいか。しかし、それは逃げてしまう。歓ばんとするものは歓べ。明日のことはわからないのだから」ロレンツォ・デ・メディチ。輝くルネッサンスの栄光よ…ボッティチェッリの捧げし春の戴冠よ…。「草原の輝き、花の栄光、されどそは暁の露に似たり」「空の空、ああすべての空の空なるかな」ウァニタス(生のはかなさ)と…。
⚫️サンドロ・ボッティチェッリのウェヌスの誕生と春/アビ・ヴァールブルグ著 伊藤博明 監修 富松保文 訳 ありな書房クアトロチェント(15世紀)の芸術家たちに古代への「関心を抱かせた」ものが何であったかを明らかにする。
⚫️ヴィーナスを開く・裸体・夢・残酷/ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著 宮下志郎・森元康介 訳 白水社 帯にはフロイト、サド、バタイユを通じて、ボッティチェッリの名作「ヴィーナスの誕生」「ナスタージョ物語」を分析し、エロスの豊穣さに向けた解放と、タトナスの残酷さによる裂開へと導く。とあるが、まさにヴィーナスの解剖にまで至る。「メディチ家のヴィーナス」。クレメンテ・スジーニという蝋細工師が作った異常なほどリアルな蝋模型なのである。開かれた裸体、ヴィーナスの美しさの神秘はどこにあるのか。ダリはヴィーナスの彫像に引き出しを付けたが…。
⚫️春の戴冠/辻邦生(1977)花の聖母教会 – サンタ・マリア・デル・フィオーレ大堂、フィレチェの栄耀と没落、メディチと画家ボテッチェリ、パッツイ家、サヴォナローラの暗躍・・・滅びる故に美しい?