8/ 10th, 2013 | Author: Ken |
耽美的映像美 …「斬る」。
60年代初頭、黒澤明監督の「用心棒」続いて「椿三十郎」が封切られた。その荒々しいまでの画面、異様な設定の宿場で繰り広げられる凄まじいまでの殺陣に喝采を叫んだ。従来の時代劇、いやチャンバラ映画に引導を渡したのだ。肉と骨を断ち切る、いやブッタ斬る効果音、噴出する血しぶき、スピード感とダイナミズム。今までの白塗り美剣士の踊りのような殺陣の概念を変えたのだ。これを見た映画各社とも悩んだだろうな。美男剣士が飯の食い上げなのだ。…..その中でみずみずしくも新鮮な時代劇が現れた。
「斬る」(1962年)原作:柴田錬三郎の「梅一枝」、監督:三隅研次、脚本:新藤兼人、撮影:本田省三、主演:市川雷蔵、藤村志保、万里昌代、天地茂、他。何が違うかって?…..画面がデザインされているのだ。1:2.35のシネスコ画面がレイアウトされているのだ。全編、耽美的映像美に満ちているのだ(ぼくは当時デザインを学ぶガキだったから、もう見とれてしまった。それから何回見ただろう)。
冒頭、極端に片寄った左隅に侍女の横顔 … 正面 … 赤い蹴出しと白足袋、暗い板の間に映り込みが美しい … 結い上げた髪をカメラがゆっくり下がると … 緊張した美しい顔 … 天井からの俯瞰撮影 … 眠る側室の布団に正座して …「国のため。お部屋様のお命申し受けまする」… 巨大な枯れ株に対比して白装束侍女と打首役の侍 … 白刃に滴る水 … 見合す侍女と侍 … 白刃一閃 … 太陽。この調子でストーリーは続くのだ。お話は柴錬、得意の数奇な産まれの孤高の天才剣士、女性的とも思える雷蔵の端然とした姿が美しい。これはグラフィックデザインだ。処刑場の侍女と侍、これは父と母だ。シネスコ横長画面に見つめ合う二人、この空間処理、デザインしたいために作った映画か?… 旅での途中で事件に遭遇、追手に追われる姉弟 … 弟を逃がすため白い肌、緋縮緬の襦袢、懐剣、素裸で立向かい「情けを知れ!」死とエロティシズムだ。 … 世は尊王攘夷の嵐に … 水戸 … 枯野で襲いかかる浪士団を切り、懐紙で刀を拭う、懐紙が空に舞い …. 刺客との一騎打ち、カメラが引くと、何と刺客の頭から股まで真っ二つ(漫画的だが新鮮)。… 水戸先代公命日とあって両刀をを預け … 刺客が…梅の枝を取り三絃の構え … 喉を挿し貫き … 仏間に駆けつけ…次々に無人の部屋の襖を開き … 主人大炊頭は既に絶命。… 静かに自刃。 … 最後にまたあの太陽が…….。監督のセンスと美意識に満ちた映画である。
◯監督の三隅研次は職人なんですね。何とか賞なんかに無縁だが映画作りが実に上手い。そう、A・アルドリッチとかW・フリードキンとか …日本では岡本喜八、五社英雄とか娯楽映画に徹した監督は面白い。世界のクロサワだって娯楽映画こそ最高なんだ。
★You tubeには何でもあるのですね。フルムービーで http://www.youtube.com/watch?v=qI9kZgu9GvI