4/ 8th, 2010 | Author: Ken |
聖性と俗性
映画「カラヴァッジオ」を見た。監督:アンジェロ・ロンゴーニ(製作イタリア)。バロックの画家ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi Caravaggio 1571〜1610)、37歳で逝った天才の波乱に満ちたスキャンダラスな生涯を描く。
時代考証も確りし、絵画製作過程も再現している。「果物籠」「蜥蜴に噛まれる少年」「バッコス」「聖カタリナ」「いかさま」「ユディト」「蛇の聖母子」「洗礼者ヨハネの斬首」など有名なものはほとんど網羅している。俳優も絵のそっくりさんを使い、制作の様子も映像として再現していて面白い。「聖マタイの召命」動画を一瞬で切り取ったようなダイナミックで劇的な絵だ。この光を見つけるシーンは興味をかき立てられた。
この絵の明暗法は、後に夜の画家と言われたラ・トゥール、そしてあのレンブラントへと発展していく。あの17世紀前半に光と影の明暗、まだ広角レンズの無い時代に短縮法描く迫力など、ほんとうに時代を越えている。
モデルは市井の人間であり、俗っぽい笑みや厭らしさがより人間を見せつけるのだ。人間の持つ生臭い俗を描くところが何とも凄い。映画は伝記に忠実であるのはよいのだが、内面を描こうとするあまり「ペスト・死」の象徴としての黒騎士の悪夢は余計だと感じた。(PTSD? また映画アマデゥスの影響か?)また音楽で盛り上げようとして不快な不協和音を使ったり、クロスカッティングで絵を見せるところは使い古された手法だし、もっとバロック音楽の華やかさの裏の悲しみや押さえた演技が欲しかった。(前にデレク・ジャーマンの「カラヴァッジョ」も見たが監督がゲイであるだけにホモセクシャル映画であった)。
凄い絵といえば残首されたカラヴァッジョ自画像を描く「ゴリアテの首を持つダヴィデ」は恐ろしい絵だ。これもアレッサンドロ・アッローリが「ホロフェルネスの首」にカラヴァッジョの強い影響を見る事ができる。….1610年7月18日、希代の画家ポルト・エルコーレで死す。…..カラヴァッジのすべてを見たいのだが、そんなことは不可能だし画集や本で辛抱しているのだが。
●「カラヴァッジオ」ミア・チノッティ 森田義之 訳 岩波書店:その生涯と全作品、A3判で印刷も良い。全作品カタログ付。
●「カラヴァッジョ灼熱の生涯」デズモンド スアード 石鍋真澄・真理子 訳 白水社:波瀾万丈の生涯を史料と研究をもとに描く。
●「カラヴァッジオ鑑」岡田温司 編 人文書院:フリード、ロンギまで、論者17名によるカラヴァッジョの世界。
●「カラヴァッジオ」宮下規久朗 名古屋大学出版会:血と暴力に彩られた破滅的な生涯を描く。彼は多くのカラヴァッジオを書いて
いる。彼の市民講座にぼくも通っていたことがあるのだ。なかなかユニークな人で顔までカラヴァッジオ風の異才である。