8/ 28th, 2011 | Author: Ken |
シャーロック・ホークスの肖像研究
さる昔、倫敦・トッテナムコートの寂れた骨董屋でこの絵を見つけた。埃を拭ってみると端正な男の肖像ではないか。どこかで見た事がある顔だ。そう、あの世界初の諮問探偵シャーロック・ホームズのイメージに酷似しているではないか。嬉しくなって因業な親父と交渉、値切に値切って手に入れた。どうせ偽物だろうサ、そうに決まっている。
….イコノロジーなどと大袈裟なものではないが学者の友人にも頼み分析を試みた。まずキャンバスと木枠、ともに相当古く一世紀は経っているだろう。炭素C14による年代測定では1899年誤差5年と出た。また絵具による時代測定も当時の顔料であると分析された…..。ということは100年前の材料を見つけてきて現代に描いたものだろうか。いや本当に当時に描かれたものか?….謎は深まるばかりだ。まず、この肖像画の男はあまりにも聖典通りである。秀でた額、鷲鼻、尖った顎、長い指、パイプ、微かに左隅にはストラディバリらしきものも見えるではないか! 当時は肖像画の時代だ。何かの記念に描いたものではないか? もしかしたらホームズがレジオン・ドヌール勲章を受章した時か、それとも1900年サーの称号云々の時か。ホームズが辞退し絵だけが残った? 絵から読み解けば年齢から見て40代の顔である。恐らくライヘンバッハの滝から3年の時を失踪、その帰還後だろう。なぜなら思索に耽る時に両手を合わせるのは、彼がチベットのラサでダライ・ラマと親しく会話してからその癖がついたという。それでは肝腎の画家は誰か?出版代理人の父親?またリチャード・ドイルとは明らかに世界が違う。それではシドニー・パジェットか?彼なら描いただろう、しかしタッチが違うし油絵を描いた記録もない。それとも当時の無名の肖像画家か? いやワトスンか? …彼には文学的才能はあるが芸術的センスはないし、まして絵筆を握るなんて….。
不可能なことを排除していけば、そこに残ったものが、どんなに信じられないようなことでも、真実なのだ。…
推理と熟考の末、ホームズ本人が描いた自画像であろうとの結論に至った。そのためには決定的な証拠が欲しい。X線による鑑定、そして汚れを丹念に落としてみれば何と署名が出て来たではないか。S.Hoaksとある。ははーん、これこそ彼のやりそうなことだ。ホームズに発音が似ているしHoaksは、Hoax(でっち上げ)である。ホームズは芸術家ヴァルネの血を引き画才もある。ヴァイオリンも巧みに演奏する。まあ、贋作云々を論議してもはじまらないが……。とにかくFoaxを楽しむことに尽きるのだよ。