10/ 14th, 2010 | Author: Ken |
赤死病の仮面…… ポー讃/3
“The Masque of the Red Death”「赤死病の仮面」1842年。純粋な想像力は美しさあるいは醜さから、今まで化合されたことのないものでもって作られる…..この精神の化学作用において…..醜いものからさえもそれが想像させる唯一の目的であり、同時にまた想像力の不可避的な験である….(想像力)。
…..美しさを製造することにおいてポーはこのように語る。光輝、燦爛、峻刻、幽玄、怪異、人工美、技巧、計算。「赤死病の仮面」の精緻さは特別である。まずおどろおどろしい赤い死、僧院の閉鎖空間、青、紫、緑、橙、白、菫、この色彩の氾濫のなかを豪華絢爛な仮面舞踏会の渦がある。艶やかで、夢幻的で、グロテスクで、奇異で….、そして真っ黒な天鵞絨のタペストリーで被われた第七の部屋を赤の瑠璃玻璃を通した篝火が揺らめく。黒檀の大時計が時を告げ、その時オーケストラもワルツに興じる人々も一瞬動きが止まる。ここに経帷子の赤い死が現れるのだ。…..「それは夜盗のように潜入し、宴の人びとは一人また一人と彼らの歓楽の殿堂の血濡れた床にくずれ落ち、その絶望的な姿勢のまま息絶えていった。そして黒檀の時計の命脈も、陽気に浮かれていた連中の最後の者の死とともに尽きた。三脚台の焔も消えた。 And Darkness and Decay and the Red Death held illimitable domini
あとは暗黒と荒廃と「赤死病」があらゆるものの上に無限の支配権を揮うばかりだった」。八木敏雄/訳
ポーが想像した恐怖と人工美の極みである。この短編はゴシック・ロマンスだが二世紀近い時を経てもこれを超えるものは知らない。
音楽では、Andre Caplet作曲:ハープと弦楽四重奏のための「赤死病の仮面」があるが、ぼくの趣味ならバロックからロココの明るい宮廷音楽にしたい。弦楽のさざめきとチェンバロの音色。それに時おり、重々しい大時計の真鍮の肺臓から深暗な音が鳴り響くのだ。