3/ 15th, 2012 | Author: Ken |
鍵穴から覗くは誰ぞ?… 密室ミステリーの密かな愉しみ。
本格ミステリーと言えば密室殺人事件だ。世界初の諮問探偵オーギュスト・デュパンが登場し快刀乱麻を断つ冴えを見せるE・A・ポーの「モルグ街の殺人事件」を源流として、それより古典的密室トリックとして名高い、ガストン・ルルーの「黄色い部屋の秘密」、ジョン・ディクスン・カーの「三つの棺」など枚挙に暇がない。世界中のミステリー作家が頭の冴えとトリックにチャレンジしありとあらゆるパターンの密室事件が書かれてきた。勝手な想像だが数万の、いやそれ以上の密室があるのだろう。密室はチャレンジ欲をそそるのだ。俺がもっと新鮮なアイディアを考えだしてやると….。
あのホームズも「まだらの紐」「唇の曲った男」などで活躍、日本では江戸川乱歩が「D坂の殺人事件」「屋根裏の散歩者」を、横溝正史が日本的開放家屋での「本陣殺人事件」を著した。名作と呼ばれるものは数多あるのだが、本格ものは結局、合理的で整合性のある結末を提示しなければならないからトリックが分かった時点で、なーんだ!と興醒めするものも多い。むしろ文章作法のレトリックに凝る作品の方が読者に挑戦状を叩きつける….答えは文章中にあると。大きく分類すれば心理的トリック…機械的トリック…物理的トリックに分けられる。後はそれらの組み合わせの様々なバージョンだ。しかし何故こんな面倒な工作をするのだろうか?
●自殺に見せかける ●アリバイ工作のため ●第三者に罪をなすりつける ●自己顕示欲 ●時間差の錯覚を利用 ●記憶の錯覚を利用 ●他に誘導するためのミスディレクション、等々。 機械的・物理的トリックとしては●鍵穴から糸を利用して内側から鍵を差す。● 毒ガス・毒液をかける、長い針でインスリンを注射 ●毒蛇、毒蜂などの致死性毒を持つ小動物を使う(実際軍事用にそんな蜂ロボットを作っているとか) ●矢を射る、氷の弾丸 ●圧搾空気、ウォータージェット、レーザー光線….. ●死体に見せかけ実は生きている ●窓枠が外れる、部屋全体がエレベーター ● 家がトレーラーハウスで移動 ●殺してから部屋を作り家を建てる ●部屋の温度を急変させたり、幽霊など幻視を演出しトラウマに衝撃を与え心臓麻痺を起こさす(そんなこと可能?四谷怪談か?)。●催眠術を使う….
どれもこれも無理がありますね。だから社会派ミステリーが生まれたのだ。と、言いながらTVのドラマは酷いもんだ。「死ぬ前に教えておいてやろう」…なぜか東尋坊の断崖が多いですね、オイオイ、無駄口叩くまえに殺っちゃったら…..。取り調べ室に容疑者と刑事、赤トンボの音楽、親子丼、「お前は本当の悪じゃない。全部吐いて真人間になるんだ。…号泣」いい加減にしてよ!。
これがファンタジーや恐怖小説や、SFなら奇想天外なオチで読者を煙に巻くこともできるのだが…….。
憶い出すままに、思考機械による独房からの脱出、また1.5メートル幅、両側は手がかりの無い壁。数秒で犯人が消えた?… 答えは「歩いて登った」ロッククライミングでありますね。山小屋で脚を折った男、松葉杖も無く小屋に火をかけられた。…どうして逃げる? ヒント:歩くのは脚だけではない。サーカスの空中ブランコの実演中に観衆の目前で一人が消えた?昔キオの大魔術では双子を使ったとか、ディビット・カッパーフィールドの舞台では箱ごと空中に持ち上げられ閃光破裂音で消える。途端に観客席の後から爆音とともにハーレー・ダビットソンに跨がったカッパーフィールドが登場、鮮やかでしたね。彼は自由の女神さえ消したのだ。
… 読者の推理・想像を超えるオチを求めてミステリー作家は呻吟苦闘するのだが、人間という大きさを抜け出ささすためには4次元空間でも通らなければ物理的に不可能だ。おまけに現代は音声、録画、GPS、携帯電話、監視カメラ、衛星、無人監視偵察機、グーグルアース、DNA分析、果ては粒子加速器の放射光による極微の物質分析まで出来るのだから….。やはり密室ミステリーは時代が長閑だった19世紀から20世紀にかけての知的お遊びだったのだろう。これからもハイテクをかいくぐって新鮮な「密室殺人事件」が書かれるのだろうか。ところがフーデーニも吃驚の歴とした「密室からの脱出」が現実にあるのだ。現代の量子力学によると古典的物理学理論では乗り越えられないポテンシャル障壁を量子効果によって透過してしまうのだ。粒子の波動関数が障壁の外まで染み出してしまうからだ。走査型トンネル顕微鏡や電子デバイスなど現代の様々な機器に応用されているのだ。あなたのPCもフラッシュメモリーもね。そしてこの宇宙も無から有に、量子のゆらぎがトンネル効果で生み出されたというのだ。まさに密室ミステリーもここに極まれりだ。