12/ 23rd, 2009 | Author: Ken |
静寂。
風もそよともしない青漆黒の海、岩塊だけが夕陽の残照に一瞬の輝きを見せる。暗緑い空に向って密集した糸杉が立ち聳える。岩塊に刻まれた墓室、漕ぎ寄せる一艘の小舟、白布で身体を覆た人物が木乃伊のように立つ、櫂の音も水の滴りさえも聞こえぬ。時間は止まり、一切の静寂、ここは忘却の海か。死者の島か。
——アルノルト・ベックリーン(1827〜1901)「死の島」1880 彼は5点の「死の島」を描いた。現在ベルリンにある1点はかってヒットラーが所有していた。第4版は現在行方不明である。孤独とペシミズムが底流にあるとはいえ、画家には「生の島」という作品もある。憧憬と楽園的な明るい島は「死の島」と対極をなす。「死の島」凍てつくような孤独、暗鬱なメランコリーは都市の喧噪と憂鬱、輻輳する社会からの逃走なのか。時の止まった一切の静寂のなかに凍りついた永遠を見る。