3/ 17th, 2013 | Author: Ken |
飛行するデザイン….トンボ、秋津、蜻蛉、蜻蜓。
スイ、スイー….。この表現はトンボのためにある。ホバリングから加速、またホバリング。その飛翔姿は美しい。古来日本は秋津洲と呼ばれた。秋津とはトンボ、古事記によると日本列島は蜻蛉の形をしているからだと….。おいおい宇宙から見たのかね?
…神話を信用したとしても、高々二千年くらいだ。その点トンボは約三億年前の石炭紀には存在していた。それも70cm以上もある怪物のようなトンボ、メガネウラだ。その化石を見ると現在のトンボとほとんど変わっていない。よっぽど基本設計が優れていたのだろう。
タンデム複葉の羽は超軽量で強靭、桁に網目構造、透明の膜。これを平米に直したら何と11g。厚さ1mmのジュラルミンなら重量は2.8kg、トンボの羽と軽さだと0.004mmの箔になってしまう(佐貫亦・鯨飛べより)。そしてアスペクト比(縦横比)の大きい主翼は効率が良い。昆虫のような小さなものにとって飛行速度と空気の粘性力(レイノルズ数・慣性力と粘性力の比)はスープのように濃く無視できない。だから滑らかな断面を持つ層流翼は小さな飛翔体にはかえって纏いつき粘りつくのだ。そこでトンボは翅の断面を非常に薄く形状は凸凹にしたのだ。何と!凸凹翼は上面の前縁から整った渦列を作り、纏いつく空気を逃がし、抵抗を小さく揚力を大きくしているのだ。つまり揚抗比が大きい主翼は優れているのだ。ヤンマは時速50〜90kmで飛翔するというし、急加速、減速、ホバリング、旋回といった運動性にも優れた特性を発揮するのだ。その飛翔姿は攻撃ヘリコプターに酷似している。残念ながら生物なので回転翼じゃないが背中に負った4枚羽、巨大な複眼は1〜2万個がビッシリと並び動かすことによりほぼ全周が見渡せる。まるでヒューズドアレイ・レーダーかTADS(目標捕捉・指示照準装置)ようだ。強力な顎はM230チェーンガンか!獲物を見つけると抜群の運動性と高速に物を言わせ、飛んでいる蚊、アブ、ブヨなどを空中戦で捕まえる。害虫を捕るので益虫と呼ばれるがトンボは猛虫なのだ。
…ヤンマは低空を直線飛行でテリトリーをパトロールし巡回するので、比較的捕まえやすい。子どものころヤンマを狙って川辺で補虫網を振ったものだ。そっと指でつまむとオニヤンマは黄と黒のラグビージャージを着たみたいだし、オレは危険なんだぞという警戒色を見せつけているのだ。グリーンにギロギロと輝く大目玉の幾何学的模様、羽ばたきは恐ろしいほど力強いのだ。ギンヤンマのグリーンとブルーに輝く体は煌めく宝石のようだ。その美しさは生物というより人工物のようだ。太陽に透かし見蕩れていた….。
秋になるとアキアカネの群飛が美しい。(旧軍の複葉練習機はオレンジに塗装されていたので「赤とんぼ」の愛称で親しまれた。)色が濃くなるとまるで唐辛子かネオン管のようだ。……「赤とんぼ」、何か郷愁を誘うイメージが強すぎるが、これは陳腐なサスペンス刑事ドラマで使われ過ぎたせいだろう。安っぽいシナリオ、その罪は大きい。….昔、播州赤穂に友人がいてイチゴ狩りなんかで遊びに行くと夕刻ともなれば有線放送で「赤とんぼ」が流れるのだ。〜夕焼け小焼けの赤とんぼ 負れてみたのはいつの日か…(ずーっとトンボに追われたと誤解していたが)。三木露風・山田耕作先生にイチャモンをつけるわけではないけれど、この曲のメロディーは、ロベルト・シューマンの「序奏と協奏的アレグロ ニ短調 op.134」の中で何回も繰り返されるフレーズに酷似していますね….。