12/ 7th, 2009 | Author: Ken |
飛行するデザイン……レシプロ機
鳥は美しい。飛行のために進化という永劫の時間をかけてデザインされたからだ。ジュラルミンでできた鳥も美しい。航空評論家の
佐貫亦男さんは「ヒコーキ」や「道具」のデザインにこだわった方で、その発想法や視点は非常に鋭い。特にレシプロ機の美しさを
愛した方だ。美の基準は様々でユンカースJu52など3発、波板外版、無骨な脚など古めかしいが独特の機能美がある。タンテ(おば
さん)の愛称もその信頼性からきたのだろう。レシプロ機には独特の魅力があり、その美しさには感動さえ憶える。空力的に計算す
れば同じ形になるはずなのに、それぞれ非常に個性的である。それは設計者の意図、すなわち確固としたコンセプトとデザイン性と
いえる。
1.「零戦21型」エース・坂井三郎氏いわく「スピンナーは鼻、両翼端は両手の中指、尾翼は足、零戦は私の身体だ。この感覚は設計
者にも分かりますまい」と語っている。この無類の操縦性は設計者・堀越二郎氏の剛性低下式操縦索、これこそ一番の特徴だと。
無骨なグラマンF4Fと較べると零戦は優美でしなやかな美人の感がある。
2.「グラマンF8Fベアキャット」零戦並の機体にP&W R2800ダブルワスプ2,100馬力を搭載。ギリギリまで贅肉を削った引き締まっ
た精悍さがある。同時期に日本海軍はF6F並みの「烈風」を試作した。仮に戦力化できハ43が期待どうりの馬力を出したとして、
果たしてF8Fに勝てただろうか?
3.「キ77・A-26」流麗な形はどうだ。長距離飛行を狙ったアスペクト比の高い長大な翼、ドーサルフィンが垂直尾翼に続くラインが
実に美しい。満州で周回記録飛行を行い、非公認ながら16,435kmを記録している。2号機はシンガポールからドイツを目指したがど
こに消えたのだろう。
4.「J7W1・震電」鶴野正敬少佐は従来型の限界性能を大幅に上回る革新的な戦闘機を狙った。前翼型(エンテ)、後退翼、推進式の
プロペラのユニークなデザイン。同時代の各国の前翼機と較べてはるかに近代的だ。
5.「FW190」フォッケウルフ社のクルト・タンク技師は速いだけが取り柄のサラブレッドではなく「ディーンストプフェーアト・騎
兵の馬」をコンセプトとして開発を進めた。直線的な簡素なライン、徹底した生産性、整備性、合理性。猪武者にも似たそこにデザ
インを強く感じる。
6.「キ46・一〇〇式司令部偵察機」特に3型/4型の究極なまでに洗練された流麗さ、段なし風防の細身の機体形状、美しさは性能にも
繋がる。高速性と優秀な上昇限度、長大な航続距離。排気タービンを装備した2機の4型が、北京から福生まで平均時速700km強とい
う快記録。その流れを汲むキ83も素晴らしい美しさだ。戦後米軍機用のハイオクタンガソリンを使用し、最大速度762km/hを記録し
たという。
7.「P51H・マスタング」D 型をより洗練させればこうなった。剽悍であって流麗、バランスのとれた悍馬だ。究極のレシプロ機である。
8.「ハインケルHe219・ウーフー」ドイツの夜間戦闘機。一見空冷に見えるがDB603液冷エンジンを装備、前部に集中したコックピッ
ト、腹部のMG151、背にはシュレーゲムジーク(喧しい音楽)の斜銃、新しいコンセプトによるデザインだ。奇怪に見えて美しい。
9.「ジービー・レーサー」この寸詰まり空飛ぶビア樽。R-1は1932 年に開催された「トンプソントロフィーレース」優勝機。パイロッ
トは後の東京初空襲のジミー・ドゥーリットル。大馬力のエンジンで機体を強引に引っ張る設計。異様に太い胴体、スピードという
単一目的のためにこうなった。不細工だが美しい。
10.「ダグラスDC-3」初飛行は1935年、現在まで使われている無類の実用性。軍でも使われC-47スカイトレーン、英軍ではダコタとい
う愛称。日本やソ連でもライセンス生産された。この優れた基本デザインによる抜群の信頼性、特別美人ではないが長年連れ添った
古女房のようだ。楕円翼のスピットファイア、モスキート、P-47サンダーボルトM、あの不細工なF4UコルセアもFAU-4になってス
ッキリ美人になった。「二式大艇」、キ76四式重爆「飛竜」、リパブリックXF-12レインボウなど機能とデザインの美しさは格別だ。