4/ 12th, 2010 | Author: Ken |
外骨さん、大好きだ!
こんな凄い人がいた。宮武外骨(慶応3年1867〜昭和30年1955)、ジャーナリストにして世相風俗研究家、反骨とパロディに徹し面白可笑しく世相を批判した。あのマイケル・ムーアだって真っ青になる人だ。あの明治時代にここまでやるか!
とにかく「頓智研法発布式」として「第一條、大頓知協会ハ讃岐平民ノ外骨之ヲ統括ス」と大日本国憲法発布を皮肉って不敬罪に問われ入獄3年8ヶ月。その生涯で入獄は4回、罰金・発禁などは29回に及んだ。その「頓智協会」設立のお知らせも効いている。
「美玉も琢磨せざれば光輝に発せず私剣も砥礪せざれば断割に適せず(古い々ゝ)、本会は一名活機転用学校と称い、専ら時に応じ変に臨んで利用すべき頓智を発育養成するを主義とし、広く会員を全国に募集す。余の名前は「宮武外骨」である。…ついては、この主旨を十全に理解し、今後の頓智の縦横無尽なる活躍に期待せし紳士諸君であるならば参加しない手はないであろう。余の今後の活動に賛同するものは余の居宅にその旨送りたし」。まさに空前絶後の宣言ですね。
そして「滑稽新聞」を創刊し記事の大半を自ら書いた。時事批評から下世話な世相まで、毒を仕込んだパロディー精神、さらに挿絵もなかなかである。…怒り脳天に達し頭がカチ割れたイラストなんか、それはもう! 当局が「滑稽新聞」に対して発行禁止命令を出せば、外骨は先んじて173号を以て「自殺号」として廃刊。しかし翌月には「大阪滑稽新聞」を出すなど何とも奮っている。傑作なのは「真の写真」として自分の顔に墨を塗り紙に推し当てる顔拓。娘が鏡で化粧、映っているのは骸骨。鋏が男女の顔で接吻、タイトルが「切っても切れない仲」。アールヌーヴォーはハイカラ繪にあらず日本古代模様の化物。….とか、当時の写真加工まであったり広告まで楽しめる。彼はアートディレクターだ。デザイナーだ。クリエィターだ。
大正5年(1916)にスコブル面白くて、スコブルためになると、月刊誌「スコブル」を創刊し。大正6年には衆議院選挙に再び選挙違反告発を目的として立候補。投票日前に「落選報告演説會」の告知を出したり、落選後予定どおり開催した。…まあ何と。そのアイディア、ウィット、遊び精神、パロディ、斬新、奇天烈、モダン、ナンセンス、行動…。とても常人には真似できない生き方だが、現代の企画・デザイナーを遥に越えている。とにかく凄い、単なる奇人ではなく真のヴィジュアリストと僕は尊敬している。
外骨さん、大好きだ。
●「宮武外骨・滑稽新聞」赤瀬川原平・吉野孝雄 編:筑摩書房 復刻版(全6冊)別冊「繪葉書世界」
●「過激にして愛嬌あり」吉野孝雄 筑摩書房 ●「外骨という人がいた!」赤瀬川原平:筑摩書房
4/ 7th, 2010 | Author: Ken |
戦艦大和ノ最期
満開の桜である。昭和20年(1945)4月7日、戦艦大和は沈んだ。それは、戦争を知らない世代にとって語る資格はないのだろうか。
日本人には悲壮感を伴ってこそ自らを鼓舞する意識が強い。白虎隊、神風特別攻撃隊、吉田満著「戦艦大和」を現代の平家物語とさえ例える評論家もある。全編文語体。文語にはリズムがあり暗唱にたえ、口語は黙読すると、山本夏彦は書くが、まさに文語の速度感で一気に読ませる。文章は一気呵成、あまりにも雄々しく美々しい。しかし、置かれた状況として無理もないが、予備学生といえども士官のからの視点である。ほとんどの死が下士官・兵であったことを思うとき、彼ら沈黙の声があることを考えてしまう。
あの時代「断じて行えば、鬼神もこれを退く、天佑は我にあり」の神がかった熱弁や、作戦は壮烈無比の突入…、光輝ある帝国海軍水上部隊の伝統を高揚する…一億総特攻のさきがけという面子など、作文と気分が優先し、疑問を持ったまま菊水一号作戦は開始された。
結局は石油が枯渇し巨体を柱島にさらすより死に際に華を咲かせたい、という現実から遊離した観念である。また片道燃料で出撃との説が広範に流府し悲劇性を増しているが実際は4000トンの往復分は積載した…。玉砕、散華、言葉は美しいが滅びの美学に陶酔していたのだろうか。たくさんの若者が死んでいった。大和が目指したその沖縄もいま基地問題で揺れている。
….あれから65年、いまだからこそ「愚」とか言える。私がその時代・立場であったなら何を感じ、また何を書き残せたであろう。
「戦艦大和と戦後」吉田満 保坂正康 編 筑摩書房:何度も改稿されたその決定稿といえる。
「戦艦大和の最後」坪井 平次 著 光人社:下士官・兵の立場から書かれた記録である。淡々と書かれ別の凄味すら感じられる。
映画「戦艦大和ノ最期」1953年、監督:阿部豊 応援監督:松林宗恵 昨年の今頃、松林宗恵さんのお話をうかがった。
彼も8月15日に逝った。「そう、皆死んでいったんだよ。彼らの言葉を代弁したいんだよねー」。その言葉が耳朶に残る。
3/ 22nd, 2010 | Author: Ken |
名探偵登場…何でも十傑。
探偵稼業もやり辛くなったものだ。携帯電話、GPS、監視カメラ、司法解剖、ガスクロマトグラフィー、DNA鑑定、毒物の組成を調べるためにSPring8まで使うのだから。密室殺人、凶器、トリック、そして大団円という図式が成立しなくなった。だから探偵が輝いていたのは19世紀後半から20世紀前半なのである。いかに読者に挑むか作者たちが技巧と知恵を絞った時代である。推理、ミスディレクション、倒叙、安楽椅子探偵….。これら珠玉の作品を愉しむのはこの上ない悦楽である。とても十傑を選べといっても無理なので、あくまで私の印象に残る作品の紹介である。E・クインや江戸川乱歩の選んだのとほとんど同じになってしまった。
⚫️「盗まれた手紙」エドガー・アラン・ポー:史上初の探偵C・オーギュスト・デュパンの登場(1841年・モルグ街の殺人)。
⚫️「唇のねじれた男」コナン・ドイル:あのシャーロック・ホームズがアヘン窟にいた。….商売は三日やったら止められない。
⚫️「ダブリン事件」バロネロ・オルツイ:安楽椅子探偵、隅の老人。名前も何も分からない謎の老人が推理力で…。
⚫️「13号独房の問題」ジャック・フィットル:オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン、思考機械の登場。フィットルは1912年タイタニック号遭難事故で死亡。
⚫️「赤い絹の肩かけ」モーリス・ルブラン:あの紳士にして強盗、詐欺師、冒険家、アルセーヌ・リュパンが活躍。
⚫️「オスカー・ブロズキー事件」R・オースチン・フリーマン:当時最新の法医学や鑑識技術を取り入れ、一見不可能に見える事件を科学的に解明。ソーンダイク博士の頭脳が冴える。
⚫️「ギルバート・マレル卿の絵」ヴィクター・L・ホワイトチャーチ:走行中の列車から目指す一両だけをどうすれば抜きだせるのか?
⚫️「堕天使の物語」パーシヴァル・ワイルド:カードゲームのトリック、その労力たるや…。奇術師ロベール・ウーダンによるいかさまの話からと言うが果たして。
⚫️「茶の葉」エドガー・ジェプスン&ロバート・ユーステス:トルコ風呂殺人、凶器は何だ?…この手はいっぱい模作を生んだ。おかげで今ならすぐ思いつく。凶器は….の槍で殺したというのを読んだことがある。
⚫️「密室の行者」ロナルド・A・ノックス:密室殺人、食料が豊富な部屋にいて、なぜ餓死なんだ?
⚫️「二壜のソース」ロード・ダンセイニ:死体を隠せ!なぜ薪割りなんかしているんだ。
現代ではアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」会話を聞いていた給仕のヘンリーの推理が冴える。「ユニオンクラブ」微睡んでいた意地悪爺さんグリズウォルドがやおら目を覚まし…。大好きだ。 他にもエルキュール・ポワロ、ブラウン神父、ドルリー・レーン、アンクル・アブナー、マックス・カラドス、ミス・マープルなどなど、いかに個性的探偵を創作するかと多彩である。わが国にも明智小五郎、金田一耕助、三河町の半七、神津恭介と…。
3/ 13th, 2010 | Author: Ken |
眉唾。
あなたの血液型って何? やっぱり水瓶座だ! 2012年の惑星直列がサー。日常会話でこんな話多いですよね。ホラ話や遊びならいいけれど本当に信じちゃって押し付けられるのはかなわないですよねー。
これ食べると健康になる!ホザク猿面キャスター、あんたの運勢!デカイ面のオバハンとか…。霊験あらたかな深層水?で顔を洗って出直せって気になりますよねー。マイナスイオンは何処へ行っちゃたの?
常温核融合でエネルギー心配なしと言ったのは誰だ! 本屋で立ち読みしていたら「この手の新書」が多いですね。
ビジネス、健康、生き方、似非心理学・脳科学?ほとんどが眉唾モノですね。科学的と言えば言うほど非科学的なんだから、どうぞタレント稼業で儲けてちょうだい。その人たち自分で自分を信じているの? ….. 嗚呼! 努々御油断遊ばすな。
疑似科学、似非科学、ニセ科学、pseudoscience、ギリシャ語のψευδ(プセウデース)と、scienceの語源であるラテン語のscientia(スキエンティア)の複合語である。ぼくはガチガチの科学信奉者じゃないけれど「科学は間違いをおかすが間違いを正すのも科学である」。地動説も大陸移動説も最初はトンデモ説だったが、科学がそれを解明し定説となった。この気持ちを大切にしたいものだ。
★「超科学をきる」テレンス・ハインズ:疑似科学は 1)反証が不可能であること(ポパーによる反証可能性)2)検証への消極的態度 3)立証責任を転嫁する。と、このようにまとめている。カール・ポターは心理学を疑似科学と断定している。…ホントそう思うね。
★「奇妙な論理」マーティン・ガードナー:疑似科学を自称する人々は 1)自分を天才だと考えている。2)仲間たちを例外なく無知な大馬鹿者と考えている。3)自分は不当にも迫害され差別されていると考えている。4)偉大な科学者や、確立されている理論に攻撃の的を絞(アインシュタインは間違っていた!が多いネ)。5)複雑な専門用語を使って書く傾向がよく見られ、勝手に創った用語や表現を駆使している(思想・哲学書に多い….の類いはわざと難解な文章で誤摩化す手合いが多いですね)。
★「科学と悪霊を語る」カール・セーガン:知識を得るための道具という点では、科学はとうてい完璧などと言えた代物ではない。ただ、
人間が手にしている道具のなかでは、いちばん“まし”だというだけのことだ。…科学は人間の進むべき道を教えてはくれないけれど、
どの道を選べばどうなるかは、はっきりと示してくれる。….でも、火星の人面岩って面白いね。詳しくはまたの機会に。
★「なぜ人はニセ科学を信じるのか」マイケル・シャーマー:たとえ客観主義を展開する哲学集団でさえ、カルト集団になってしまうと。個人崇拝、指導者の無謬性、秘密計画(ハルマゲドン)、最後には資産を差しだせだ。…声高なイデオロギーも似ているね。
★「だます心、だまされる心」安斎 育郎:講演はマジックを実演しながらユーモアと含蓄ある語り口が実に面白い。彼の友人の大槻先生はプロ以上に飛ばすドライバーなんて広告に出たりして自らトンデモ化しているけれど…。「世の中にはまだ科学でもわからない事がたくさんあり、急がずに調べていけばよい」「科学のなすべき役割と宗教の役割は別、それぞれにそれぞれの持分がある」。と。
クールに生きたいと思うけれど悩むのが人間なんだから。自分で自分を見ている自分を、もう一人の自分が見ている姿勢でしょうか。
2/ 18th, 2010 | Author: Ken |
焚書
こんな本は焚書にすべきなのか?
子どもの頃から不思議なことが大好きだった。歳が幾につれ合理的に解釈するようになり、消えたかに思ったがますます不思議さは増大していく。要は「信じるか、信じないか」に集約されるのだが、ぼくは科学信奉者?であるから疑似科学の類いははっきりと言って嫌いである。唯物論か唯心論とかの立場は別に置いて、人間にはまだ解らないものだからこそ痛く好奇心を刺激するのだ。
●「世界を変える7つの実験」ルパート・シェルドレイク/田中康夫訳 工作舍 シェルドレイクは生化学において博士号を取得した英国王立協会会員である。彼が誰にでもできる実験として、次のような提案をする。
1. ペットは飼い主が家路についたかを感知する?… 確かに。犬が玄関に出て主人の帰りを待つ。奥さんはそれで主人の帰宅時間が分かる。友人の犬なんか帰宅時間はばらばらなのに、いつも犬が迎えに立つと奥さんの証言もある。ぼくの猫も玄関で待っているね。
2. 鳩はどうやって巣に帰る? 3.シロアリはどうやってアーチを作るのか? 4.心は脳の外に拡がるか? 5.誰かに見つめられている感覚? 6.幻肢はそこに実在する? 7.ゆらぐ科学の客観性神話?7.基礎定数は変化する? 8.実験者の期待は結果を左右する?
●「生命のニューサイエンス」ルパート・シェルドレイク 幾島幸子 訳 竹居光太郎 工作舍 サイエンス誌から焚書ものだと言われた問題の書。形態形成場(モルフォジェネティク・フィールド)仮説。… あらゆるシステムの形態は過去に存在した同じような形態の影響を受けて、生物の同一種が同じ形態になるのは、形態形成場に時空を超えた共鳴現象が起きることによる。
… 時間的相関関係があるのか? 離れた場所に起こった一方の出来事が、直接的な接触が無くても、他方の出来事に影響する。
… 空間的相関関係があるのか? これらは「形の場」による「形の共鳴」と呼ばれるプロセスによって起こる。… 確かに水が重力によって流れると谷や河ができますね。これは形態形成場における現象なのでしょうか。当たり前と思うまえに考えよ!か。
●「科学は心霊現象をいかにとらえるか」ブライアン・ジョセフソン/茂木 健一郎、竹内 薫 訳 徳間書店
あの超伝導体におけるトンネル効果でノーベル賞を貰った人だ。本のタイトルがオカルトぽいが、原題は The Paranormal and PlatonicWorld「科学を越えた精神的世界」。量子の非局在性が生命現象や意識状態に関わる可能性、プラトン的世界観・実在論、音楽のクオリアに関する論と幅広い。竹内 薫の解説が面白くて分かりやすい。テレパシーにも触れているので疑似科学と誤解を受けそうだが、科学は仮説の上にあるのだし、科学の間違いは科学が正すのだから研究する価値はあるのだろう。科学的問題を心の問題や道徳と混在さすから、変な論議になるんだね。科学者だって神を信じている人は多いし、神学者だって科学が解明するという立場の人がいるんだから。
2/ 9th, 2010 | Author: Ken |
トンデモなく楽しい。
トンデモ本はトンデモなく楽しい。最初にオオ!と声を上げたのは、そうあれですよ。フォン・デニケンの「未来の記憶」だった。半ば信じたくなりましたね。でも考えれば、何も宇宙人を出さなくても、ピラミッドにしろイースター島のモアイにしろ、人間が作ったのが一番の早道だよね。その作りかけの遺跡や道具もある訳だし。
物事はシンプルであるほど正解に近いとは「オッカムの剃刀」ですね。「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くの実体を仮定するべきでない」と。でも「ある事柄が、3つの要素で説明できないのならば、4つ目の要素を加えよ」という格言もある。これも頷ける。
そして、あの五島勉の「ノストラダムスの大予言」だ。これはベストセラーになった。その中でこりゃダメだという写真があった。ヨーロッパで海岸に打ち上げられた半身半魚という写真。あれルネ・マグリットの絵じゃないの(時代がノンビリしてたのかな)。
1999年もとっくに過ぎたけれど恐怖の大王はどこへいったのか!中には素敵な本もあるんだよ。NASAの技術者が著した「円盤製造法」、エゼキエルの書を分析し設計したら円盤が出来た。その合理性と知的お遊び。大好きだ!「第三の眼」ロブサン・ランパ、これは英国人がチベットで超能力の秘法を授かったなんてホラ話の傑作だ。世界的ベストセラーになった。他にも「バミューダ・トライアングル」「雪男」「ネッシー」と限りもない。でもホラ話はエンターテインメントとしていいんだ。どこかの占い師や超能力と称する疑似宗教家、先祖の霊を慰めると称して金を巻き上げる輩。コ奴らには嘘という罪がある。眉にツバをべったり塗ってトンデモ本を楽しむ。これでいいんじゃないかな。
そして馬鹿にするんじゃなく真面目に考えて見るのも必要じゃないかな。
★「トンデモ科学の見破り方」ロバート・アーリック著 垂水雄二・坂本芳久訳 草思社:「トンデモ説」は沢山あるが、その中には真剣な学説があるかも知れない。 かってウェゲナーの大陸移動説は「トンデモ説」と思われていたが 現在は定説になっている。未知の理論が「トンデモ」なのか、 それとも「マトモ」な考えのなのか。その辺をマトモにトンデモ度を考察する本だ。
1「銃を普及すれば犯罪率は低下する」 2「エイズの原因がHIVというのは嘘」 3「紫外線は体にいいことの方が多い」 4「放射線も微量なら浴びた方がいい」 5「太陽系には遠くにもう一つ太陽がある」 6「石油、石炭、天然ガス生物起源ではない」 7「未来へも過去へも時間旅行は可能である」 8「光より速い粒子「タキオン」は存在する」 6「宇宙のはじまりはビッグバンは間違い」
彼は多くの説や統計で検証し彼なりの判断を下し、トンデモ度で採点している。
★「怪しい科学の見抜き方」ロバート・アーリック著 垂水雄二・坂本芳久訳 草思社:
1「地球温暖化はいいこと?」 2「人間はどんどんバカになってる?」 3「コレステロールは気にする必要はない?」 4「ゲイは遺伝か?」 5「宇宙に複雑な性はまれか?」 6「ニセ薬で病気は治せるか?」 7「念力でモノは動かせるか?」 8「インテリジェント・デザイン説は科学か?」
以上の仮説について、賛否両論を詳細に検討し判定する。…….さて、あなたはどう考えますか?
★「トンデモ現象99の真相」と学会 著 洋泉社:面白いの何のって!
1/ 26th, 2010 | Author: Ken |
ガリレオの指
ガリレオの指は何を指しているのか。「この指の遺物を軽んじてはならない。この右手が天空の軌道を調べ、それまでに見えなかった天体を人々に対して明らかにした。もろいガラスのかけらを作る事で、太古の昔に若き巨人の力を持ってしても出来なかった偉業を大胆にも初めてしてのけたのだ。巨人たちは天の高みへ登ろうと山々を高く積み上げたものの、空しく終わっていたのである」。
1737年にガリレオの亡骸がフィレンツエのサンタ・クローチェ教会へ移された際切り取られ、現フィレンツエ博物館にある。
「ガリレオの指」― 現代科学を動かす10大理論 ピーター アトキンス 斉藤 隆央 早川書房
現代科学が到達した高みから、人類が築いてきた知識を明快に解説する啓蒙書だ。非常に分かりやすくページを繰るたびに知的感動を呼び起こす素晴らしい本だ。
まずプロローグ「知識の登場」1.進化― 複雑さの出現 2.DNA― 生物学の合理化 3.エネルギー― 収支勘定の通貨 4.エントロピー ― 変化の原動力 5.原子― 物質の還元 6.対称性 ― 美の定量化 7.量子 ― 理解の単純化 8.宇宙論 ― 広がりゆく現実 9.時空 ― 活動の場 10.算術 ― 理性の限界
エピローグ「知識の未来」と、一般人がよく読みすく理解しやすいように噛み砕いた文と図表で、科学の根幹・体系・原理・本質をセレクトし解説する。そのなかで一番記憶に残ったのがこの言葉だ。「数学が人間の頭の内部で生み出され、それが外部の物理的世界の記述に最適なように見えるという面だ。内部のものがどうして外部のものに最適になるのだろうか?…….」
そういえば究極の物質を求める「スーパーストリング(超弦)理論」「M・幕(membrane)これは10次元に時間の次元を加えて11次元、しかし空間の6次元、7次元は小さく丸められている…。美人で物理学のジョディ・フォスターといわれるリサ・ランドールの(ワープする宇宙)に詳しい」理論なんて抽象的・形而上学的哲学で決して実験で証明できない頭の内部だけの理論だ。好奇心をかき立ててくれる。
●「人類が知っていることのすべての短い歴史」ビル・ブライソン 楡木浩一訳 日本放送出版協会 ….これも楽しい本だ。
●「科学にはわからないことがある理由」ジョン・D・バロウ 松浦俊輔訳 青土社 ……だけど知りたいんだ。
●「ワープする宇宙」5次元の謎を解く:リサ・ランドール 向山信治 監訳 塩原通緒 訳 NHK出版
1/ 16th, 2010 | Author: Ken |
何でも十傑……恐怖怪奇短編。
「恐怖は人間の最も古い、最も強い感情だ」H.P.ラブクラフト…これほど技巧を要する小説はないのではないか、近代恐怖小説はE.A.ポーを嚆矢とをもってするが、名作と呼ばれるものは洗練の珠玉である。ラブクラフトのクトゥル神話系は邪神や物の怪だし、スプラッターは美しくない。やはりゴシック・ロマンや怪談のおどろおどろしいところがいい。
★「猿の手」W.W.ジェイコブス:猿の手は三つの願いを聞いてくれるが…。かってのオーソン・ウェルズ劇場の第一話じゃなかったか?ほんとうに良く出来た話だね。映画「マタンゴ」の原作ウィリアム・ホープ・ホジスンの「闇の声」もいいね。
★「たんす」半村良:夜中になると一人ずつたんすの上に座り虚空を見ている…。たんすの取手がカタンカタンと聞こえる。おとーよー、お前のたんすをもって来たよー。何が見えるって?あんたも座ってみたら見えるんだよ。
★「レミング」リチャード・マシスン:1ページに足りない短編であるが映像がリアルに浮かびあがる。連合軍が撤退した跡のダンケルクの海岸を思い出すね。
★「早過ぎた埋葬」E.A.ポー:ポーにはたまらない耽美性がありますね。古典の名作中の名作。「赤き死の仮面」なんてそれはもう!リチャード・マシスンの「墓場からの帰還」も同テーマ。
★「人間椅子」江戸川乱歩:奥さま、いまお座りの椅子は…。ゾーッとするとはこのことだね。
★「炎天」W.F.ハーヴィー:うだるような日、墓石に自分の名が刻まれていた…。
★「青頭巾」上田秋成:瞼に瞼をもたせ、手に手をとりくみて日を經給ふが、終に心神みだれ、生きてありし日に違がわず戯れつつも、其の肉の腐り爛れるを吝て、肉を吸骨を嘗て、はた喫いつくしぬ。…この辺は鬼気迫るね。江月照松風吹 永夜清夜何所為(こうげつてらししょうふうふく えいやせいしょうなんのしょいぞ)そもさん夜何所為ぞ!喝!「菊花の契り」「吉備津の釜」「浅芽が宿」も忘れ難いね。
★「ポインター氏の日録」M.R.ジェイムス:カーテンが揺らめき、安楽椅子から垂らしたした指先に触れたものは…。
★「家のなかの絵」H.P.ラブクラフト:雨宿りに田舎の廃屋のような家に入ると一冊の挿絵本が開かれていた…。
★「耳なし芳一」小泉八雲:身体にお経を書く、これは不気味。シュワルッツネッガーの映画「コナン」で真似していたね。
そして「因果話」…奥方が臨終に殿寵愛の女を呼んで、庭の桜を見せておくれ。おぶった途端両乳房を握りしめ「とうとう願いがかなったぞえ、ああ嬉や」とこと切れた。手は乳房と一体になりどうしても取れなかった。女の胸には黒く萎びた手首だけが残され、夜になると乳房を責め苛んだ、彼女は尼になって国々を放浪したという…。
1/ 13th, 2010 | Author: Ken |
何でも十傑……奇妙な味。
一度読んだら何か「奇妙な味」が後に残り忘れ難い短編小説がある。割り切れなさ、不気味さ、シックジョーク、ブラックユーモア、ホラー、ファンタジー、リドル・ストーリー…。何でもありなのだが超絶技巧を凝らしたプロット、どんでん返し、オチがいいんだ。名作を選ぶのにあまりに迷うので順位はつけられない。迷いに迷い現在書きかけです。
★「女か虎か」フランク・ストックトン:どんな話かは読んでいただくとして、これは人間心理の迷宮だね。
★「ふくろうの河」アンビローズ・ビアス:これは映画にもなった(ロベール・アンリコ、フランス1961年、You Tubeで見ることがで
きる)。これが素晴らしい。昔トワイライトゾーンだったと思うが見たんだ。時は過ぎまたを見たくって姫路の駅ビルにある映画
館まで追いかけて行った。ビター(苦い)ビアスと言われるだけのことはある。「愛国は悪人の最後の逃げどころ」(悪魔の辞典)
★「テイスト」ロアルト・ダール:ワインの当てっこなんだが引き込まれるね。「南から来た男」とどちらを取るか迷うのだが…。リゾートホテルで若者が賭けをする。ライターが10回連続でつくかどうか?ヒッチコック劇場で放映した。なんとS・マックィーンだ。P・ローレがなんとも…。これもYou Tubeにある。ロアルト・ダールには名作が多過ぎて…。
★「開かれた窓」サキ:有名すぎますね。でも孤独な少年が凶暴な鼬を飼う「スレドニ・ヴァシュター」も心に残る味だね。
★「注文の多い料理店」宮沢賢治:童話なんだけど、ある意味ではエリンの特別料理より凄いかも。
★「賢者の贈りもの」O・ヘンリー:あまりにも有名過ぎるが見事としか言いようがない。「最後の一葉」も名作中の名作だね。
★「特別料理」スタンリイ・エリン:チシャ猫の笑いが頭にこびりつくね。「最後の一壜」ウーン!こんなワインがあるのかね。
★「みずうみ」レイ・ブラッドヴェリ:幼い頃、仲良しの女の子と汀で砂の城を作った。彼女が水死して、時は過ぎ…。ブラッドヴェリには素晴らしいのが多過ぎて。「乙女」「刺青の男」「大鎌」…。
★「頂上の男」R・ブレットナー:8000メートルの山に挑戦する男が頂上で見たものは…。
★「アムンゼンのテント」J・マーチン・リーイ:南極点に放棄されたテントがあった…。中を見るな!見てはならない!
★「金の斧」ガストン・ルルー:保養地で出会った女性に金の斧のアクセサリーをプレゼントした…。余談だが「シュミット親方の首切り日記」を昔読んだ。山田浅右衛門吉亮を描いた綱淵 謙錠の「斬」は秀逸。吉亮晩年の写真を何かの本で見た事がある。
閑話休題、他にも「押し絵と旅する男」江戸川乱歩、「ミリアム」トルーマン・カポーティ、「蛇」スタインベック、「夢十夜」夏目漱石、「件」内田百軒、ヘンリー・スレッサー、パトリシア・ハイスミス、あれもこれも…。
1/ 8th, 2010 | Author: Ken |
人間なんだからナ。
開高健が好きだ。初めて読んだのは「パニック」「裸の王様」だった。そしてあの「日本三文オペラ」。大阪砲兵工廠の焼け跡の鉄を狙ったアパッチ族を描いたものだ。当時朝鮮戦争の特需で鉄が高騰したのだった。いまの環状線は城東線と呼ばれていて森ノ宮あたりは赤錆びた鉄骨を曝していた。盗みに入った賊が警官隊に追われてキャアキャア逃げる騒声が西部劇のアパッチ族を連想させたからだ。
それからヴェトナム戦争、ビアフラ、アイヒマン裁判、アウシュビッツと、人間というものを見過ぎたのだろうか、釣りや食の世界に入った。
これが楽しい。あの早口の大阪弁でまくしたてる口調とユーモア、蘊蓄、言葉の陰翳を駆使する文章は超絶技巧だ。食にしても単なるグルメなんかじゃない。細胞からの飢えというか焼け跡の飢餓が背景にずっしりと澱んでいるんだ。わたしの兄も予科練から帰ってきて最初の給料を全てコッペパンに替え、泣きながら食ったといっていた。胃の腑が原点なんだ。この人間というなまぐさき生き物は…。 彼が井伏鱒二氏との対談で「先生、豊かになり飢えることがなくなると人間のエネルギーが減るんですね」。そんなことを喋っているのを見た事がある。彼の色紙には「入って来て生と叫び、出て行って死と叫ぶ」とあった。
「産まれてくるのは偶然、生きるのは苦痛、死ぬのは厄介」とは聖ベルナールの言葉だが彼の本のどこかで読んだ気がする。「昨日は一滴の精液、明日は一握の灰」マルクス・アキレーリウスと同じだね。それにしても早過ぎる死だった。新たな天体を見つけに旅立ったのか…。もっと読みたかったのに…。バイヤ・コン・ディオス! … そう、人間らしくやりたいな、人間なんだからナ。