9/ 9th, 2012 | Author: Ken |
魔法の泉
暑い、残暑が厳しい。今年の夏はほんとうに雨が少なかった。公園の噴水も心なしか弱々しく見える。地球温暖化現象が始まっているのだろうか……?そんな不安が頭を過る。 ずーっと昔、ウィンドウディスプレイに眼を見張った。空中にビール瓶が何の支えも吊り糸もなくあって、ビールが下のジョッキに永遠に注がれているのだ!みんなも立ち止まって不思議そうに眺めていた。ぼくもいったいどういう仕掛けだろうと眺め続けていた。もし自分で作るならどうする?…なるほど!そうか!!「エウレカ!」。それほど大それたことでなく単純だった。答えは流れ落ちる滝の中に透明パイプをネ。ジョッキの底かテーブルにポンプが仕込んであってテーブルの足に電気コードが巧妙に隠されている。これだ!…やはりそうでしたね。
同じように「水飲み鳥」、あれは永久機関じゃないの? この仕組みも巧妙極まりますね。
4/ 1st, 2012 | Author: Ken |
スケボー・キャット Skateboard Cat
もう春だ。日差しが眩しい。公園の桜もそろそろだ。
我が家のPONTA君、春を待ちかねたようにスケートボードの練習に余念がない。
猫だけにその身軽な事!宙返りも逆立ちも凄技の連続だ。
毎年カルフォルニアで開かれる「世界動物スケートボード大会」を目指しているのだろう。
昨年はブルドッグのHasty君が優勝したそうだ。
11/ 17th, 2011 | Author: Ken |
無いはずのものが見える。
●
これはカニッツアの錯視の別バージョンだ。中央になぜか三角錐のピラミッドが見える。
主観的輪郭と言うのだそうだ。1955年にイタリアの心理学者ガエタノ・カニッツァにより発表された。
全体を見るように眼を凝らせば消えるが、また現れる。
頭の中で勝手にイメージを作ってしまうんですね。
11/ 5th, 2011 | Author: Ken |
見えるって不思議 … 不可能な図形。
モノを見るとはどういうことだろう。視覚とは外界からの光が網膜像から脳内で3次元構造に復元し認識することだろう。いや網膜像は2次元の平面だし、おまけに倒立像だ。どこかで自動処理をしているのだろう。見えるとは本当に不思議なことだ。錯覚、錯視というのもある。光と影、近くは大きく遠くは小さいという遠近感、焦点によるボケ具合、等々….。脳が、身体が、憶え込んでしまっているから自動的に2次元に描かれた画像や物体を3次元で感じてしまうのだ。スェーデンの芸術家オスカー・ロイテスバルトが考えた不可能の三角形というのがある。それを数学者ロジャー・ペンローズが考案した「不可能性の最も純粋な形」がある。そしてM.C.エッシャーの絵で様々に展開されて有名だ。この「不可能な三角形」これは2次元の「絵」では表現できるのだが通常の3次元空間では具現化できない。ただある一点(角度)から眺めた時にだけ見える3次元物体を作る事は可能だ。前に科学館で見た事がある。オーストラリアのパースには大きなモニュメントがあるそうだ。(しまった!上の絵の床をペンローズ・タイルにすればよかった)。
見えるって不思議だ。普段はまったく意識しないし当たり前のように感じているけれど、それって脳内のバーチャルを見ている訳?じゃクオリアって何?「あのリンゴの赤さ」とか「空は青い」とか主観的な質感だ。視覚・聴覚・触覚・嗅覚・痛覚・時間体験、それにその感覚を他人に対して体験言語化不可能だし、他者から観測できない個人的で私秘的なものだ。ぼくは宗教心なんて皆無だが、人間は古くからこの言葉にならないものを分類してきた。大乗仏教で言う六根・六境・六識の三範疇の分類や眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識・末那識・阿頼耶識という知恵の根源を探してきた。この世界のすべての物事は縁起、つまり相対的な現象なのだと。唯識説だ。おっと、だといって物理学の相対論や量子論と同じだといってはいけないね。科学は実験と実証、唯識は瞑想だから…….。まあ、ぼくには一生「悟り」なんて得られるはずもない。あれ、不思議な図形の話が妙な方向にいっちゃった。お許しを。
8/ 28th, 2011 | Author: Ken |
シャーロック・ホークスの肖像研究
さる昔、倫敦・トッテナムコートの寂れた骨董屋でこの絵を見つけた。埃を拭ってみると端正な男の肖像ではないか。どこかで見た事がある顔だ。そう、あの世界初の諮問探偵シャーロック・ホームズのイメージに酷似しているではないか。嬉しくなって因業な親父と交渉、値切に値切って手に入れた。どうせ偽物だろうサ、そうに決まっている。
….イコノロジーなどと大袈裟なものではないが学者の友人にも頼み分析を試みた。まずキャンバスと木枠、ともに相当古く一世紀は経っているだろう。炭素C14による年代測定では1899年誤差5年と出た。また絵具による時代測定も当時の顔料であると分析された…..。ということは100年前の材料を見つけてきて現代に描いたものだろうか。いや本当に当時に描かれたものか?….謎は深まるばかりだ。まず、この肖像画の男はあまりにも聖典通りである。秀でた額、鷲鼻、尖った顎、長い指、パイプ、微かに左隅にはストラディバリらしきものも見えるではないか! 当時は肖像画の時代だ。何かの記念に描いたものではないか? もしかしたらホームズがレジオン・ドヌール勲章を受章した時か、それとも1900年サーの称号云々の時か。ホームズが辞退し絵だけが残った? 絵から読み解けば年齢から見て40代の顔である。恐らくライヘンバッハの滝から3年の時を失踪、その帰還後だろう。なぜなら思索に耽る時に両手を合わせるのは、彼がチベットのラサでダライ・ラマと親しく会話してからその癖がついたという。それでは肝腎の画家は誰か?出版代理人の父親?またリチャード・ドイルとは明らかに世界が違う。それではシドニー・パジェットか?彼なら描いただろう、しかしタッチが違うし油絵を描いた記録もない。それとも当時の無名の肖像画家か? いやワトスンか? …彼には文学的才能はあるが芸術的センスはないし、まして絵筆を握るなんて….。
不可能なことを排除していけば、そこに残ったものが、どんなに信じられないようなことでも、真実なのだ。…
推理と熟考の末、ホームズ本人が描いた自画像であろうとの結論に至った。そのためには決定的な証拠が欲しい。X線による鑑定、そして汚れを丹念に落としてみれば何と署名が出て来たではないか。S.Hoaksとある。ははーん、これこそ彼のやりそうなことだ。ホームズに発音が似ているしHoaksは、Hoax(でっち上げ)である。ホームズは芸術家ヴァルネの血を引き画才もある。ヴァイオリンも巧みに演奏する。まあ、贋作云々を論議してもはじまらないが……。とにかくFoaxを楽しむことに尽きるのだよ。
8/ 18th, 2011 | Author: Ken |
ヨハネは何を指差すか。
レオナルド・ダ・ヴィンチ最晩年の作と言われる「洗礼者ヨハネ」、その不思議な微笑と天を指す指先は、いったい何を示しているのだろう。
15世紀半ばから16世紀初頭という当時の世界観から言って恐らく神と解釈するのが妥当なのだろうが、果たしてダ・ヴィンチは敬虔な信者だったのだろうか。あの時代においてあれほどの科学的観察、描写力、客観性、合理的思考、想像力を持ってしても、それ故に未知に対しての謎と好奇心は尋常ではなかったはずだ。人智の及ばぬ永遠の謎を指先に込めたのではなかろうか。
ここ一世紀ほどの間に人間は未知に対して驚異の発見をしてきた。ビッグバンに始まり宇宙を支配する4つの力、量子力学、原子に内在するエネルギー。そしてその核力を引き出したのが66年前だ。それより「ヒロシマ」「ナガサキ」「ビキニ」「チェルノブイリ」「フクシマ」。人間は何というものを作り出してしまったのか。
…だがそれは原初からこの宇宙に組込まれていたものを単に人間が取り出しただけなのか? 宇宙に物質が生まれ、凝縮し太陽となり、その核融合で重い物質が生成され、それが超新星爆発を起し、より重い物質が生まれた。私たちの身体もそれらの星屑から出来ている。現に地球の内部では今も放射性物質の崩壊熱によるマントル対流が地殻を動かしそれが地震を起こす……。
放射性物質というのも不思議なものだ。地球46億年の時間に半減期を繰り返し今も残っている。ウラン235の半減期は約7億年だ。ルビジュウムの半減期は490億年、フェルミニュウム244は0.0033秒である。ある量が半減する時間は解っているのに目の前の物質一つがいつ崩壊するかは誰にも分からない。1秒後か1億年後か….?(アナロジーとして人間は必ず死ぬ。これは必然である。しかし誰がいつ死ぬかは分からない。でも寿命はだいたい決まっているのに)。そして人間は地上に残る希釈されたウラン235を人為的に濃縮し爆弾や原子炉を作った。それがいまコントロールが利かない状態に堕ちいっている….。宇宙の法則を知った積もりの人間の傲慢さから来ているのだろうか….。
ぼくは無神論者だがこの宇宙の秘めた永遠の「Enigma・謎」を知りたいと思う。
そこで恥知らずにもダ・ヴィンチの「ヨハネ」のパスティーシュ(作風の模倣)を試みた。モデルは嫌がる豚児に頼んだ。安易だね。メタルロック小僧、茶髪、ロンゲ、おまけに洗礼名はほんとうにヨハネである。「おい、もっと真剣な顔しろや」「こんなアホなことやってられっか!」
4/ 13th, 2011 | Author: Ken |
ミッシング-リンク?
ホームズから電報が届いた。彼とは「最後の挨拶」以来会っていない。私はホームズと再会できる喜びにサセックスに赴いた。
ホームズはテーブルの上の古びた頭蓋骨を観察していた。「どうしたんだい?その頭蓋骨は」。…「いや、鑑定を依頼されたのだ。最近この近くのピルトダウンで発掘されたものだ。君はどう見るかね」。…「まさか君のじゃあるまいね?モーティーマ医師が昔ホームズの頭蓋骨を欲しがっていたからね。
…… 相当古いものだが明らかにネアンデルタールではない。眼窟上隆起が少ないし現代人に近いね。でも下顎骨と合わないね」。…「お見事ワトスン!ぼくも同意見だ。頭蓋冠はホモサピエンスの明らかな特徴を示しているが、この顎と接合部が不自然だし犬歯や歯並びも奇妙だ。よってこの下顎骨は類人猿のものと推定される。恐らく偽物だ!
しかし何故こんなものを埋めたのか?その動機と人間を推理する方に興味を惹かれるね」。…「疑わしい人もいるんだろ?」。…「まず発見者が疑われるだろう。弁護士でありアマチュアの考古学者でもあったチャールズ・ドーソンだ。ドーソンは大映博物館古生物学者ウッドワードのところへ持ち込んだ。そして彼らは再調査し、さらに2本の臼歯のついた下顎骨を発見した。これこそがミッシング・リンクである猿人であり、イギリス人の祖先として相応しい大きな頭脳を持っていた!とね。話はここから喧々諤々の大論争となるのだ。
本物だ、いや疑わしい…….。捏造なら犯人が誰か?また何が動機なのか?捏造するには地質学、古生物学、解剖学の専門的知識が必要だ。疑われしい学者は大勢いるが、ぼくの推理は違う」。…「ぜひ聞きたいね」。…「まず動機だ。一つは大英帝国が人類学的にも進化学的にも優れているというこの時代風潮と愛国心だね。そして自分が信じることへの批判、これを逆に嘲笑したいという欲望、つまり愉快犯だ」。
…「ホームズ、ぼくには分からないな」。…「ほら君もよく知っているぼくの親戚でもあるチャレンジャー教授だ。彼は「ロスト・ワールド」を探検し、未発表の「人類の起源」論文もある。その出版代理人であるA.C.ドイル卿には動機があるね。驚くのは無理もないが彼はピルトダウンの近くに住んでいるし、その知識もある。そして自ら信じる進化学や妖精の存在、降霊術を批判する世間に対する増悪であり嘲笑なのだ」。「彼は医者でもあるし学会の推理力にも挑戦したのだろう」。
しかし、結論は急がない方がよいね。将来新しい年代測定方やデータが揃ったときに「完全な偽物」と断定できるだろう。いまぼくの推理を発表すると学会には冷たい東風になるだろうよ。夢を壊しちゃいけないよ。まだ聖書を信じ進化論は受け入れ難い人々が多いからね。それは常識を混乱させ大英帝国の威信を損なうことになりかねないからだよ」。…..「まあ、概して事件の外見が奇怪に見えれば見えるほどその本質は単純なものだ。それを学ぶべきだね。真実への近道なんてあり得ないのだよ。ぼくが発表するより後世に期待しようよ」。
★ 1950年、フッ素法により検査が行なわれ骨が1,500年以内のもので捏造品であると結論された。1953年にはオックスフォード大学の研究者らによる、より精密な年代測定と調査・分析が行われ、その結果、下顎骨はオランウータンのものであり、臼歯の咬面は人類のそれに似せて整形されていた証拠、古く見えるよう薬品で石器などとともに着色されていた事実、獣骨は他の地域のものである事なのである。
詳しくは「ピルトダウン」F.スペンサー著 山口敏/訳:みすず書房(1996)…犯人は誰か?興味津々読み応えある本だ。
★ 2000年、日本で旧石器捏造事件があった。東北旧石器文化研究所の副理事長が、30年近くに渡って縄文時代の石器を3万年以上前の地層に埋め、それを掘り出して日本の前期旧石器時代の存在を創作し続けていたのである。彼は「神の手」と呼ばれていた。ピルトダウン人事件に相通じるところがある。
★ 西洋絵画にはヴァニタスという寓意的静物画のジャンルがある。「人生の空しさの寓意」を表す頭蓋骨を置き人間の死すべき定めを暗示し、虚栄のはかなさを喚起させる。頭蓋骨は黙して語らない。
★モーツアルトの頭蓋骨というのもある。DNA鑑定の結果、偽物であると判定された。(ネットに写真がありますよ。検索してみて)
★マッシモ・ボンテンペルリの「頭蓋骨に描かれた絵」奇妙な味の短編である。
★ 落語に「頼朝公御十四歳のみぎりの髑髏」というのがある。大頭として有名な源頼朝の頭蓋骨だといって売ろうする男に、客がそれにしては小さいではないかというと、「十四歳のみぎりのしゃれこうべ」とね。
4/ 1st, 2011 | Author: Ken |
猫自慢。
まあ、見て下さい。名前はPonta。
もらってきた時は白く小さな普通の子猫だった。
ところがトンでもなく餌を食べる。キャットフードの袋なんか1日で無くなるのだ。
調べてみたらジャイアント・ノルウェージャン・フォレスト・キャットの変種だそうだ。
どうもスノー・レパードの血が混ざっているのかもしれぬ。極めておとなしく甘えん坊だが、ご近所のシェパードや
ドーベルマンをネズミ代わりに襲おうとするので外出禁止だ。とにかく、もう!持ち上げるのも一苦労だ。
3/ 9th, 2011 | Author: Ken |
謎を切る。推理で斬る。
「ホームズ、この絵は君が描いたのかい?」「いや今朝届いたのだ」。わたしは早速ホームズのやり方で推理してみた。
「これは描いたものではないね。紙を鋭利な刃物でカットした切り絵だ。このような切り絵はフランスのシルエットが広めたというが技法が違うようだ。おや? ittetsuというサインがあるぞ。作者というのが妥当だが、「緋色の研究」のこともあるしit tetsuと読めば聖書のテトス、いやあの凱旋門で有名なローマ皇帝のテトウスだろうか?….ホームズへのオマージュだよ」。
「ブラボー!ワトスンよくやったよ。だが間違った推理はより間違を拡大しやすいものだ。1枚の絵の情報から何を推理するかは的確な観察、細部にこそ宿っているのだよ。まず紙は当たり前の上質紙だが英国のものではない。左向きの横顔、このショールカラーの曲線は明らかに右利きの手で切った特徴を表している。ぼくのことを相当研究しているようだが、男優ウィリアム・ジレットにモデルを求めたのだろうか。でもパイプの型が異なるし、またぼくのファッション・コーディネイターであるシドニー・パジェットの微かな影響を見るね。
そしてこの輪郭線と色使いは浮世絵の流れを汲んでいる。作者は間違いなく日本人だ。サインのIttetsuのitはすなわち一だ。tetsuは鉄または徹、硬く筋道を通すという意味だ。よく似た虎徹という名刀もあるし鋭利な刃先は日本刀の切味だろう。
これらの鉄の芸術品はウォレスコレクションで見る事が出来るよ。さらにここにはぼくの先祖である芸術家ヴァルネの絵もあるよ。この絵の包装紙に微妙なアルコールの匂いがする。パブで一杯飲りながら包んだのだ。そこから中年の酒好きの男だ。この左隅の薄いシミは明らかにスコッチの一滴だ。ぼくがスコッチ140銘柄を見分ける論文を書いたのは知っているだろう。滲み具合、色合い、匂いからフェイマスグラウスのソーダ割りだ」。……おや、ドアを開けてくれたまえ。ご本人が登場したようだよ。
Ittetsu :あのー、ドアの外で聞いていたのですが、さすがは見事な推理です。でも、浮世絵の影響というよりアメコミでしょう。鋭利な日本刀というのはうがちすぎでしょう。一本400円のデザインカッターなんですが。ホームズさんに評価されるとは! ああ、喉が渇いた。そこにあるスコッチを一杯ください。ソーダは持ってきましたので。
Holmes :「なら、ガソジンで割ったのはどうだい? スコッチはこれに限るよ!
★1890年代を「藤色の時代・モーブナインティーズ」とも呼ぶ。そこでホームズは「青いガーネット」で 紫色の化粧着で登場する。この化粧着姿は「コリアーズ」の表紙にもなった。 この紫だが1856年にウィリアム・パーキンはコールタールからアニリンの染料を発見した。このモーヴと名づけられた物質が世界初の合成染料である。ホームズもコールタール誘導体の研究をしていたから案外と言いたいところだが、残念ながら時代が合わないね。しかしホームズのことだ、より効率的製法を発見したのかも知れぬ…..。
3/ 1st, 2011 | Author: Ken |
Baritsu….馬慄…..バリツとは何だ?
「バリツ」この不思議な響きは何を意味するのであろう。時は1891年5月4日。所はスイス・ライへンバッハの滝。轟々と落下する大量の雪解け水は耳を聾し、濛々と立ち上る水煙は視界を霞ませ、目もくらむような隘路で戦う二人の姿があった。シャーロック・ホームズと宿敵モリアーティ教授である。二人は滝壺の深淵へと消えたという 発表に世界中のファンは悲嘆に暮れた。 しかし約3年の時を経てホームズは復活する。
「ぼくには日本のバリツの心得がいささかあった」とホームズは言うのだが… 。さてバリツとは何だ?ブジュツの訛か、それともそんな格闘技があったのか?様々な説があるのだが、W・バートン・ライトによって紹介された日本の護身術「バーティツ・Bartitsu」だとか、嘉納治五郎による講道館から世界に広まった柔道であるとか、いやあれは相撲の「いなし」であるとか、いや合気道の一手だとか喧しい。しかしホームズが相当な使い手である以上、相当若い頃から鍛錬していなければならぬ。ワトスン博士はそれについてどこにも記述しておらぬし、彼と知り合う前でなければ辻褄が合わないのだ。つまり彼等が出会う1881年以前の若きホームズの姿である。 大英図書館で化学と犯罪学を研鑽していたことは確かなのだが、たぶんその頃のことであろう。ここに一つのヒントが隠されていたのだ。渡英日本人による 19世紀末か20世紀初頭と思しき時代に描かれた絵、日記、写真が残されていたのだ…..。さてこれからは眉に唾を塗って涼しげに読んでいただきたい。
……その男は【成田山一徹斎・なりたさんいってつさい】嘉永七年(1854)江戸谷中生、家業は絵師、幼少より神田於玉ヶ池、磯又右衛門正足道場にて天神真楊流の皆伝。柔よく剛を制すとして柔術・棒術の真髄に迫らんと日夜の鍛錬を行う。時代は黒船、勤王攘夷、御維新と疾風怒濤の時代を越え明治となった。ワーグマンに師事し彼の推薦により、明治11年(1878)絵画研修のため渡英。その頃の日記には「われ大英図書館に通ううち様々な英才との知古を得た。その一人はドイツ訛りで豊かな髭を蓄えまるさすやえんげるすを根底とする新思想に燃える男。そして化学と犯罪史に異常な興味を示す青年に出会った。長身痩躯、人を射るような鋭い灰色の眼、鷲のような鼻、鋭敏で理知に満ち、我が輩が古武術を使うと知ると熱心に教えを請うのだった。我が輩も厳しく鍛えるうち、彼の稀に見る才により一年あまりで目録、二年目には我が輩も油断すると一本取られるほどに上達した。特に秘伝である馬慄(元亀天正の頃より騎馬武者をも怯ませ投げ飛ばす大技術、罵詈津とも書く)の奥義も伝えた。….」とある。
一徹斎は三年後に帰国、帝国大学で西洋絵画史の教鞭を取る。1891年ホームズの訃報を聞くに大いに落胆、その復活には狂喜乱舞したと聞く。20世紀初頭に再び渡欧、サセックスの地に赴きホームズと旧交を温める。たぶんその時に撮した写真ではないか?と一徹斎の曾孫である成田一徹氏は語る。最も劇的なシーンを描きホームズに贈ったのであろう。まあ、信じようと信じまいと勝手だが…….
★さる日、シャーロック・ホームズ・クラブ・ウエスト・エンド「仏滅会」の会合を覗いてみた。扉を開けた瞬間、会長の平賀三郎氏を始め炯々たる眼差しの十数人。ウム、これは!?と身構えてしまった。中には粋に和服を着こなした妙齢のご婦人方さえ見えるではないか!バイオレット嬢ならぬ紫婦人か!そして「まだらの紐」関する考察、「バスカビル家の犬」の実地検証報告となかなかの内容だった。知人より「胆を据えて参加なさるがよい」と注意はされてはいたのだが…。わが貧弱なる知識ではと恥じ入った次第だ。二次会の呼称は「ディオゲネス・クラブ」。一切口を聞いてはならぬとホームズの兄マイクロフトの創立した人嫌いの集まり倶楽部だ。
小生気を引き締めて参加したのだが、各員喋るは喋るは!大シャーロッキアン大会である。まあ、大人のお遊び、架空の人物についてこれだけの研究と楽しみがあるとは!入会を誘われたのだが、聖典(カノン)60編を再度読破してから考えよう。