12/ 14th, 2009 | Author: Ken |
FRONT
「戦争のグラフィズム」多川精一著/平凡社 この迫力ある写真は70年前のプロパガンダ誌「FRONT」だ。前にNHKで見た時に正直に凄いと思った。フォトショプや超広角レンズなんて無い時代に手作業でモンタージュし、エアブラシでレタッチをする。デザイナー(図案家)の原広、写真家の木村伊兵衛など東方社の人々が制作したものだ。当時、ソ連のプロパガンダやドイツのR・リューヘンシュタールの「意思の勝利」「民族の祭典」「美の祭典」は勿論見ていただろう。アメリカのLIFE誌を意識していたのかも知れぬ。
対外的に日本の国威や軍事力を誇示する狙いから、費用も潤沢に与えられ、大胆なレイアウト、紙質、印刷など戦前における最高の技術レベルを駆使し、クオリティも極めて高い。本物を一度見てみたいと思っている。国会図書館にあるだろうか。
この97式(チハ車)戦車の写真はどうだ。見開きページのレイアウトテクニックで一枚の写真のように見せ、遠景は合成したとあるが異様な迫力である(前に確か雑誌「丸」で見たことがある)。実物のA3版で見てみたいものだ。落下傘部隊の写真も合成で手前の人物を大きくし、ディープフォーカスの映画的手法だ。いま見てもその力量と自信が伝わってくるようだ。私もデザイナーの端くれである以上、偉そうに言えないのだが、さて、現在の広告を見ると劣化していると感じる。新聞も雑誌もTVも日本映画も、映像で息を飲むようなものがあるだろうか? 残念ながらわが国の現状は「媚び」のデザインに満ちあふれている(アメリカの雑誌には凄い映像とレイアウトを多く見る事ができる。やはり発想、美意識、インテリジェンス、効果など…。悔しいことだね)。これもWebやPC、デジカメの普及で何でもお手軽になったせいだろうか。
この東方社は対外宣伝ということもあって、あの統制の時代にあって海外の資料も見ていたそうだ。また社会主義者もいたし、憲兵や特高に持っているだけで逮捕される本もあったという。1941年にディズニーの「ファンタジア」(カラーアニメーションとクラシック音楽を融合した幻想的映画)や「風とともに去りぬ」も見たとある。これらは戦後の55年に上映された。敵性語まで排他して野球のユニフォームの背番号も漢字であり、ストライクは”いい球!”と硬直していたのだから・・・。
※これを戦後、戦争協力だとか反省が無いなどと批判する輩が多いが(…文化人面して言う人がいるね)、時代も空気も環境も違う。あなたはその時代に、徴兵拒否ができただろうか?また自分の祖国を恥じただろうか?野球だってサッカーだって贔屓チームや地元を応援するじゃないか。情報がほとんど無い戦時中、私ならその時代の空気に染まっていたと思う。
…私もデザイナーという仕事は批判精神を忘れてはいけないと、常々自分に言い聞かしてはいるが…。「戦争のグラフィズム」から写真を使用させていただきました。