9/ 6th, 2010 | Author: Ken |
Miles Smilesだ。…此の1枚…Miles/1
マイルス・デヴィスを1枚選べといってもどだい無理な話だ。極端なことを言うとモダンジャズの歴史はマイルスの歴史といってもいい。レコードを時代順に並べるとそれぞれがエポックメーキングを成しマイルストーン(里標石)であり、そしてMilesのtone(音色)であるのだ。「クールの誕生」を始め、いちいちここで名盤を説明するまでもなかろう。だから個人の思い入れとしての1枚なのだ。
…マイルスを一言でいえば、何たってカッコいい!「Walkin’」1954、針を下ろした瞬間から熱気に包まれたハードバップの意気と息吹が迫って来る。そしてユニゾンで高らかにリフレイン!…もう最高の気分にさせてくれる。「Bags Groove」まさにグルービー、イーストコーストのプレーヤーたちの溌剌とした自信と表現。これがモダンジャズだ!「Cockin’」何といってもMy Funny Valentine、このリリシズム、歌心、ミュートが泣くのです。たまりませんね。「Round Midnight」イントロから張りつめた緊張感、それが高まりブリッジで絶頂へ、コルトレーンが引き継ぎ….。夜もすがら浸りたい気分にさせてくれる。
ぼくは完全にノックアウトされたのだ。マイルスみたいに吹いてみたい。乏しい給料から月賦でトランペットを買った。音楽素養なんてまったく無しの素人が、だ。教則本で運指を憶えドレミファが吹けるようになると、LPを繰り返し々….、ワンフレーズを記憶し、次にペットで音を探る。そして譜面にコピーするのだ(涙ぐましいというよりいじらしいですね)。そしてコードはよく分からないからピアノが弾ける友人に頼み…。ソロまでフルコピーして真似をしていたのだ(いまでも微かに憶えている)。どれくらいジャズを愛していたか分かるでしょう? …コピーした譜面はほとんど散逸してしまったが、虚仮の一念、結構正確にコピー出来ていた(お恥ずかしい)。特にマイ・ファニーヴァレンタインはどれくらい練習しただろう。でもいい思い出もある。夜毎ミュートをつけて練習していると、ある夜突如ドアを開けて熊みたいな男が入ってくるではないか!驚いたね。「マイルスですね!」彼は前を通る度に聞こえてくる下手なペットが気になってしょうがなかった。で思い切ってドアを開けたと。彼は大学でジャズをやっていたから腕はぼくなんかと雲泥の差だ。それから随分と教えてもらった。彼はプロを目指し東京へ行った。やっと活躍し始めると身体を壊し夢半ばで帰ってきた。それでも夢は断ち難く、地元T高校のブラスバンド部の音楽監督として手伝い、高校ジャズバンドとして日本一に何度も輝いたという。素晴らしいことだ。
O君いまどうしているだろう。….いつもぶっきらぼうのマイルス、彼の素晴らしい音楽の縁がぼくの心にスマイルをくれた。Miles Smiles…マイルスに乾杯だ。