9/ 26th, 2011 | Author: Ken |
Nose Art/「フライヤーたちのヴィーナス」。
飛行機乗りのヴィーナス。そう、主に第二次大戦のアメリカ軍用機に描かれた美神たちだ。殺し合いの道具にピンナップガールや様々なアイコンを描いたのをノーズアート・Nose Artという。いかにもアメリカ人らしい発想でエスクアイア誌なんかの折り込みページのアルバート・バーガスやピーター・ドライベンが描いたセクシーなバーガス・ガールの絵をみて、ちょいと絵心のあるやつが、そいじゃオイラが描いてやろうと故郷の恋人や女優を機体の愛称にしたのだ。もちろんA-I、A-2やB-3ボマージャックにもド派手なのを描いている。
その下手さ加減が何ともいいんだ。わが帝国陸海軍は「かしこくも陛下よりお預かりした…..」で、とてもそんなものは描けなかったけれど、しかし末期には勇気を鼓舞するために稲妻や矢印、虎の絵なんかを描いている。
古くは第一次大戦のレッド・バロンことリヒトフォーヘンの真っ赤に塗られたフォッカーDr1やギンヌメールのコウノトリが始まりだろう。日本では加藤隼戦闘隊で有名な胸に描きし赤鷲の…か。そしてフライングタイガースの機首に描かれたシャークマウス、これはヴェトナム戦争のF4ファントム、現代ではゴツい地上攻撃機A-10まで続いている。
まあ、殺戮道具に陽気な絵を描く神経は日本人の考えとは相当に隔たりがある。アメリカのエスクアイア誌の初号(1934年)から戦前戦後のバックナンバーの殆ど見た事があるのだが、あの30〜40年代にその贅沢さ、ファッションのカッコ良さといったら…、華麗なるギャッビーを彷彿させるのだ。戦前に豪華な車、冷蔵庫、テレビ、ゴルフ、テニス、イブニングパーティ、カクテル….。フェローズの描くファッション・ページを見ただけで「ああ、こんな国ととても戦争なんてできゃしない」と思ってしまう。当時の日本人のホンの一部を除いてエスクアイア誌なんて知らなかったし(20年代からのモボモガ新青年も30年代になると戦時色に塗りつぶされていく)、たとえ見たとしても「アメリカは贅沢に慣れ怠惰である。色情に溺れ困難に打ち勝つことができない弱兵である…」。
硬直したこんな科白を本当に吐いていたのだから、その世界観たるや。だからB29のノーズアートを見ても、戦争に真面目さが足らん!と怒ったのじゃないだろうか。いまじゃもう、アメリカでSUSIなんか食ってる連中ね、SUSIはヘルシーでオシャレでインテリジェンスがあるなどと宣う。またN.Y.の街や地下鉄は一頃、落書きだらけで恐ろしく汚かった。それもアートだとさ。隔世の感がありますね。