3/ 9th, 2011 | Author: Ken |
謎を切る。推理で斬る。
「ホームズ、この絵は君が描いたのかい?」「いや今朝届いたのだ」。わたしは早速ホームズのやり方で推理してみた。
「これは描いたものではないね。紙を鋭利な刃物でカットした切り絵だ。このような切り絵はフランスのシルエットが広めたというが技法が違うようだ。おや? ittetsuというサインがあるぞ。作者というのが妥当だが、「緋色の研究」のこともあるしit tetsuと読めば聖書のテトス、いやあの凱旋門で有名なローマ皇帝のテトウスだろうか?….ホームズへのオマージュだよ」。
「ブラボー!ワトスンよくやったよ。だが間違った推理はより間違を拡大しやすいものだ。1枚の絵の情報から何を推理するかは的確な観察、細部にこそ宿っているのだよ。まず紙は当たり前の上質紙だが英国のものではない。左向きの横顔、このショールカラーの曲線は明らかに右利きの手で切った特徴を表している。ぼくのことを相当研究しているようだが、男優ウィリアム・ジレットにモデルを求めたのだろうか。でもパイプの型が異なるし、またぼくのファッション・コーディネイターであるシドニー・パジェットの微かな影響を見るね。
そしてこの輪郭線と色使いは浮世絵の流れを汲んでいる。作者は間違いなく日本人だ。サインのIttetsuのitはすなわち一だ。tetsuは鉄または徹、硬く筋道を通すという意味だ。よく似た虎徹という名刀もあるし鋭利な刃先は日本刀の切味だろう。
これらの鉄の芸術品はウォレスコレクションで見る事が出来るよ。さらにここにはぼくの先祖である芸術家ヴァルネの絵もあるよ。この絵の包装紙に微妙なアルコールの匂いがする。パブで一杯飲りながら包んだのだ。そこから中年の酒好きの男だ。この左隅の薄いシミは明らかにスコッチの一滴だ。ぼくがスコッチ140銘柄を見分ける論文を書いたのは知っているだろう。滲み具合、色合い、匂いからフェイマスグラウスのソーダ割りだ」。……おや、ドアを開けてくれたまえ。ご本人が登場したようだよ。
Ittetsu :あのー、ドアの外で聞いていたのですが、さすがは見事な推理です。でも、浮世絵の影響というよりアメコミでしょう。鋭利な日本刀というのはうがちすぎでしょう。一本400円のデザインカッターなんですが。ホームズさんに評価されるとは! ああ、喉が渇いた。そこにあるスコッチを一杯ください。ソーダは持ってきましたので。
Holmes :「なら、ガソジンで割ったのはどうだい? スコッチはこれに限るよ!
★1890年代を「藤色の時代・モーブナインティーズ」とも呼ぶ。そこでホームズは「青いガーネット」で 紫色の化粧着で登場する。この化粧着姿は「コリアーズ」の表紙にもなった。 この紫だが1856年にウィリアム・パーキンはコールタールからアニリンの染料を発見した。このモーヴと名づけられた物質が世界初の合成染料である。ホームズもコールタール誘導体の研究をしていたから案外と言いたいところだが、残念ながら時代が合わないね。しかしホームズのことだ、より効率的製法を発見したのかも知れぬ…..。
3/ 1st, 2011 | Author: Ken |
Baritsu….馬慄…..バリツとは何だ?
「バリツ」この不思議な響きは何を意味するのであろう。時は1891年5月4日。所はスイス・ライへンバッハの滝。轟々と落下する大量の雪解け水は耳を聾し、濛々と立ち上る水煙は視界を霞ませ、目もくらむような隘路で戦う二人の姿があった。シャーロック・ホームズと宿敵モリアーティ教授である。二人は滝壺の深淵へと消えたという 発表に世界中のファンは悲嘆に暮れた。 しかし約3年の時を経てホームズは復活する。
「ぼくには日本のバリツの心得がいささかあった」とホームズは言うのだが… 。さてバリツとは何だ?ブジュツの訛か、それともそんな格闘技があったのか?様々な説があるのだが、W・バートン・ライトによって紹介された日本の護身術「バーティツ・Bartitsu」だとか、嘉納治五郎による講道館から世界に広まった柔道であるとか、いやあれは相撲の「いなし」であるとか、いや合気道の一手だとか喧しい。しかしホームズが相当な使い手である以上、相当若い頃から鍛錬していなければならぬ。ワトスン博士はそれについてどこにも記述しておらぬし、彼と知り合う前でなければ辻褄が合わないのだ。つまり彼等が出会う1881年以前の若きホームズの姿である。 大英図書館で化学と犯罪学を研鑽していたことは確かなのだが、たぶんその頃のことであろう。ここに一つのヒントが隠されていたのだ。渡英日本人による 19世紀末か20世紀初頭と思しき時代に描かれた絵、日記、写真が残されていたのだ…..。さてこれからは眉に唾を塗って涼しげに読んでいただきたい。
……その男は【成田山一徹斎・なりたさんいってつさい】嘉永七年(1854)江戸谷中生、家業は絵師、幼少より神田於玉ヶ池、磯又右衛門正足道場にて天神真楊流の皆伝。柔よく剛を制すとして柔術・棒術の真髄に迫らんと日夜の鍛錬を行う。時代は黒船、勤王攘夷、御維新と疾風怒濤の時代を越え明治となった。ワーグマンに師事し彼の推薦により、明治11年(1878)絵画研修のため渡英。その頃の日記には「われ大英図書館に通ううち様々な英才との知古を得た。その一人はドイツ訛りで豊かな髭を蓄えまるさすやえんげるすを根底とする新思想に燃える男。そして化学と犯罪史に異常な興味を示す青年に出会った。長身痩躯、人を射るような鋭い灰色の眼、鷲のような鼻、鋭敏で理知に満ち、我が輩が古武術を使うと知ると熱心に教えを請うのだった。我が輩も厳しく鍛えるうち、彼の稀に見る才により一年あまりで目録、二年目には我が輩も油断すると一本取られるほどに上達した。特に秘伝である馬慄(元亀天正の頃より騎馬武者をも怯ませ投げ飛ばす大技術、罵詈津とも書く)の奥義も伝えた。….」とある。
一徹斎は三年後に帰国、帝国大学で西洋絵画史の教鞭を取る。1891年ホームズの訃報を聞くに大いに落胆、その復活には狂喜乱舞したと聞く。20世紀初頭に再び渡欧、サセックスの地に赴きホームズと旧交を温める。たぶんその時に撮した写真ではないか?と一徹斎の曾孫である成田一徹氏は語る。最も劇的なシーンを描きホームズに贈ったのであろう。まあ、信じようと信じまいと勝手だが…….
★さる日、シャーロック・ホームズ・クラブ・ウエスト・エンド「仏滅会」の会合を覗いてみた。扉を開けた瞬間、会長の平賀三郎氏を始め炯々たる眼差しの十数人。ウム、これは!?と身構えてしまった。中には粋に和服を着こなした妙齢のご婦人方さえ見えるではないか!バイオレット嬢ならぬ紫婦人か!そして「まだらの紐」関する考察、「バスカビル家の犬」の実地検証報告となかなかの内容だった。知人より「胆を据えて参加なさるがよい」と注意はされてはいたのだが…。わが貧弱なる知識ではと恥じ入った次第だ。二次会の呼称は「ディオゲネス・クラブ」。一切口を聞いてはならぬとホームズの兄マイクロフトの創立した人嫌いの集まり倶楽部だ。
小生気を引き締めて参加したのだが、各員喋るは喋るは!大シャーロッキアン大会である。まあ、大人のお遊び、架空の人物についてこれだけの研究と楽しみがあるとは!入会を誘われたのだが、聖典(カノン)60編を再度読破してから考えよう。
2/ 21st, 2011 | Author: Ken |
地球の長い午後….Sense of Wonder
地球の長い午後
太陽は老齢期を迎え赤色巨星になりつつあった。地球の自転は停止し片面は灼熱の温室、片面は凍てついた永遠の夜の世界だ。動物はほんの僅かな種を残し、一本のベンガルボダイジュが大陸を席巻し覆い尽くしていた。動物を模倣した奇怪で異形の食肉植物たちが生存競争の死闘を繰り返す悪夢のような世界である。おぞましくも顎と歯ばかりのヒカゲノワナ、無数の足で這い回るヒルカズラ、太陽光線を集めレンズ武器を使うヒツボ、トビエイ、ハネンボウ、ダンマリ、土吸鳥、フウセンイブクロ…。知恵さえ無い食肉植物が凶悪で熾烈な闘争を繰り広げているのだ。なかでも圧巻はさしわたり1哩に達する植物蜘蛛ツナワタリ、月に糸を張り渡し行き来しているのだ。
….人類は細々と生き長らえる絶滅寸前の生物で、緑色と化した肌、身長は五分の一ほどに縮み、知性は減退している。この世界で部族を追われた主人公、少年グレンの彷徨と冒険。そのグレンの頭に知能を有するキノコ、アミガサタケが取り憑く。寄生し菌糸を延ばし人間の脳と一体になりグレンをコントロールするのだ。かつての人類の知恵も文明もアミガサタケが人間の脳に侵入し進化を授けたものだという。同行するのはポイリー。グレンと同じ部族の少女だったが無惨な死を遂げる。そしてヤトマーという牧人族の女。
また黒い口というセイレーンのように抗う事のできない歌で食物を引き寄せる底知らぬ口、巨大な樹木から尻尾で繋がれた魚取りポンポン族。彼らを乗せた船は昼と夜の境界である氷の小島に流れ着くがアシタカという移動植物の撒種行動を利用し大陸に戻る。この黄昏地帯でヤトマーはグレンの仔を産む。そしてソーダル・イー/ウミツキと呼ばれる魚かイルカのような動物は、生気を失った人間の従者に自身を担が運ばせている。それは地球終焉の予言を広めるためだ。策略によりアミガサタケはグレンの頭から取り去られウミツキの頭に被せられる。
… 地球の生命は最終期を迎え生命は胞子に凝縮された。それは竜巻か柱のように吹き上がり、銀河流の奔流に乗り新たな生命の地へ向うのだ。この地球もかってカンブリア期に銀河流により撒種されたものだ…。
おどろおどろしくも驚異に満ちた想像力、ブライアン・オールディスのイマジネーションは留まるところを知らない。ファンタスティックで奇怪な妄想から生まれたような陰残で異様エネルギーに満ちた生命体。またイマジネーションは「美」でもあるのだ。SFとは驚きの絵巻物であり読む者に映像を喚起させるのだ。ぼくの勝手な好みだが「面白さの三大SF」を挙げよ!と言われると躊躇無く「重力の使命」ハル・クレメント「宇宙船ビーグル号の冒険」A.E.ヴァン・ヴォクトー、そして「地球の長い午後」と答える。こんな面白いSFはない。まさにセンス・オブ・ワンダーなのだ。
●「地球の長い午後・ Hothouse」「The Long Afternoon of Earth」(米):1962年
Brian W. Aldiss・ブライアン・オールディス 著 伊藤典夫 訳/ハヤカワ文庫
2/ 14th, 2011 | Author: Ken |
さかしま
そいつは倦怠というやつだ。…… 偽善の読者よ、同胞よ、兄弟よ。ボードレール:悪の華
フロルッサス・デ・ゼッサントという男がいる。貴族の末裔であり同族婚による劣勢遺伝子のためか病弱で過敏過ぎる神経症、E.A.ポーのアッシャー的人物だ。かっては放蕩を快楽を蕩尽し、19世紀末のブルジョワ民主主義と効率至上主義を嫌い、ひたすら趣味と洗練と美意識のためにひきこもり人工楽園をつくり上げる。自己趣味に徹した内装とラテン文学、ボードレールとマラルメの詩、食虫花や人工花、香水幻想、口中オルガンと称するリキュールの微妙なカクテル、音楽、幻想美術について延々と語られるのだ。デカダンス文学の聖書とも評されるが、誰だって自分の趣味嗜好の世界。そう、自己の糸で紡いだ繭のなかで、温々とした羊水に浮かぶ胎児のように幻想に漬りたいのだ…。
船を模した造りにアクアリウム、奇矯なオレンジ色の部屋、東洋の絨毯をより引き立てるために黄金と宝石を散らした鎧を亀に着せ、神経症による幻覚と、空想のなかで人工的技巧美を熱愛し、反自然的なものを求め続けるのだ。「本物の花を模した造花はもうたくさんで、彼がいま欲しいと思っているのは、贋物の花を模した自然の花であった」。
またジャック・カロやヤン・ロイケンの残酷さに満ちた絵画、そしてルドンの不安をかき立てる版画、モローの「サロメ」は淫蕩とヒステリーの呪われた女神である。ゴヤの絵を(カロは1633年にエッチングによる「戦争の惨禍」を描き、ゴヤも1810年に「戦争の惨禍」を同じく版画で描いている)壁に掛け、趣向と追求の饒舌ぶりは果てがない。旅に出ようと思いパリの駅まで行くが、結局想像力でどこへでも行けるとすれば行く事も無いと帰ってる….。
衰頽した精神、沈鬱な魂、移ろいやすくも繊細な神経。無為と懶惰と倦怠の裡に身を沈めるのだ。最後には医師から、このままでは神経症は快癒しないので、パリで普通の生活を命じられる。….彼は「己の投影・夢の宮殿」住居を引払うのだった。……...ただ根底にあるカトリシズムへの憧憬と反発、その奥にあるものは日本人の私にはとても掴むことが出来ない。文化の根本的差異であろう。全編に流れるのは第六感ともいえる「美意識」。通俗と俗悪を嫌い、意識と知性の高揚のために「美」を求めるのだ。
●ジョリス=カルル・ユイスマンス/著 澁澤龍彦/訳 光風社出版: 翻訳は流麗で訳者による丁寧な註がまた素晴らしい。
2/ 10th, 2011 | Author: Ken |
海底二万リーグ。
「海底2万リーグ」(1869・明治2年/日本紹介明治11年)ジュール・ベルヌ。….子供の頃から何回読み返したことだろう。深海という神秘の世界で冒険につぐ冒険…。時は1866年、日本では幕末の動乱、列強による植民地支配、近代科学と工業化の波浪が押し寄せ、砲艦が世界の政治を牛耳っていた。その時代背景を映したハードSFだ。潜水艦ノーチラス号。全長70m、全幅8m、排水量1500t、艦体は複隔式、外鋼板は6.2cmの鋲打ち構造で394t、機関はナトリュムより得る電気力、推進機は1軸、スクリュー直径6m、水中最高速力40ノット以上、潜水深度1.5万m、後続力無限、武器は艦首の衝角….。と現代の原子力潜水艦も真っ青だ。このスーパー潜水艦に男の子が夢中にならないわけがない。
追跡、遭遇、捕虜、トレス海峡での座礁と蛮人、海底狩猟、スエズトンネル、海底火山、アトランティスの廃墟、南極点、大タコとの死闘、圧政者への復讐とネモ艦長の苦悩、殺伐、そしてメイルストロムへ……。
1954年にディズニーの映画が封切られた。ぼくはほんの子どもだったから、兄に頼み込んで遠い町まで連れていってもらった。めくるめくと言うか恍惚となりましたね。ぼくは映像に衝撃を受けたのだ。燐光を発して迫る怪物のような潜水艦、海底洞窟のシャコガイから巨大真珠が、乗組員の海底での葬送シーン、蛮人の襲撃には艦体に電気を流し、大イカとの死闘、窓はカメラの絞りのように開閉し、潜水器具も大時代がかっている。おまけに艦長が沈痛な顔でオルガンを演奏するのはバッハのトッカータとフーガだ……。
ノーチラス号も涙滴型のスマートなのを想像していたのだが…….何とも古めかしい鋼鉄の凄みなのだ。大人になって分かった。そうヴィクトリアン的美意識でデザインし、鎧のような艦体、インテリアも大時代そのもの。….ウーン、ハリウッドの映画つくりに感心しますね。監督はリチャード・フライシャー、ネモ艦長にはジェームス・メイスン、銛打ちネッドはなんとカーク・ダグラスだ。
さてノーチラス号は実現できたのだろうか?
●1900年、「海島冐險奇譚 海底軍艦」日本SFの草分け押川春浪作。1963年「海底軍艦」東宝:「轟天号」艦首の巨大なドリルが…。
●1908年、英国最新鋭機密潜水艦ブルースパーティントンの設計書紛失事件。シャーロック・ホームズが解決。原作コナン・ドイル。
●1940年、日本の試験艦第71号艦は1940年に21ノットを達成、その姿は驚くほど近代的だ。甲標的(特殊潜航艇)は24kt。
●1945年、終戦間近に伊号201潜水艦水中高速艦も作られ速力19ノットを記録。同じ頃ドイツでも革新的な UボートXXI型が作られ、大量の二次電池を積んだのでエレクトリックボートと呼ばれた。水中17.5ktだった。他にもワルタータービンの試作艦も作られた。魚雷では旧海軍の酸素魚雷が60ktを達成、現在ではスーパーキャビテーションと呼ばれる薄い気泡を発生させロケットモーターで200ktに達するルシクヴァルという魚雷もある。
●1953年、アメリカは戦後実験艦アルバコアで33ktを記録。そして1954年には世界初の原子力潜水艦ノーチラスの建造、命名は海底2万リーグへのオマージュである。1958年には潜航状態で北極点を通過。
●1971年、旧ソ連アルファ型原子力潜水艦705型、43kt。…..それからはもうトライデントミサイル、巡行ミサイル、タイフーン級だの夢も希望もない殺伐機械になってしまった。ひとたび発射すれば、それは人類と地球、その歴史を破壊する。愚行の極みである。
ディーゼルエンジンと電池の通常動力潜水艦も造り続けられ日本も現在16隻保有、機密だが超張力鋼の耐圧殻、動力もスターリングエンジン、燃料電池も研究(実用化)しているようだ。水中速力も潜航深度も機密だが、後続力以外は原潜に匹敵するらしい。
● 安全潜水深度は各国とも機密だがNS80、NS120、HY130という高張力鋼 耐圧殻を備えている。まあ400〜500mなのだろう。
単に潜るだけの潜水船を対象とすると、世界最深の潜水記録トリエステ号がマリアナ海溝で記録した11,000mが最深記録だそうだ。
● ノーチラス、日本ではオウムガイ、英名はノーチラス(Nautilus)で、ギリシャ語の水夫に由来するという。ガスの詰まった殻内部の容積を調節して浮き沈みする仕組みは進化の妙である。その断面の美しいカーブときたら、時々どこかの応接間なんかで….。
2/ 4th, 2011 | Author: Ken |
御用だ!……何でも十傑。
御用だ!神妙にしろイッ!捕物帳はなんて愉しいんだ。この日本独自のミステリーは岡本綺堂「半七捕物帳」を嚆矢をもってするが、そこには「半七は江戸の隠れたるシャアロック・ホウムズであった……」とある。でも江戸時代は科学的操作方法も無かったし、ミステリーといっても理詰めの推理の構成は不可能だ。そこで結局町奉行配下の与力,同心、目明しが大江戸八百八町を生きいきと駆ける…その情緒、風俗、人々の人情味など独特の日本的風景エンターテインメント物語になった。逝し世の面影をよすがとするわけだ。
⚫️【半七捕物帳】岡本綺堂 明治中期に律儀で昔かたぎの半七老人の思い出を、茶飲み話を聞くうちに手柄話や失敗談、情緒たっぷり。
⚫️【銭形平次捕物控】野村胡堂 親分、てえ変だ、てえ変だ!…何でえ、うるせえぞ、ガラッ八!
⚫️【明治開化安吾捕物帳】坂口安吾 鹿鳴館時代を背景に旗本の末孫で洋行がえりのハイカラ男結城新十郎。剣術師範泉山虎之助、戯作者花廼屋因果、それに氷川の隠居勝海舟が絡む。海舟の冷徹な推理は……なんだ。
⚫️【若さま侍捕物手帖】城昌幸 若さまが船宿喜仙の二階座敷で、ちびりちびりと、そこへ岡っ引きの小吉が駆け来んでくる…。
⚫️【顎十郎捕物帖】久生十蘭 長大な顎から付いたあだ名とそのコンプレックスを持つ風来坊、仙波阿古十郎の活躍を描く捕物帳。
⚫️【人形佐七捕物帳】横溝正史 妖艶・情痴・怪奇・諧謔・残酷のからむ横溝正史ならではの面白さ。神田お玉が池のイケメン佐七。
⚫️【風車の浜吉捕物綴】伊藤桂一 小石川伝通院で風車を売るもの静かな男、浜吉。ある事情から江戸所払いになった暗い過去、元は根津の親分と言われた岡っ引きだった。諸国を放浪し人足時代におぼえた籠風車作り。世を偲んでひっそりと生きているが…。
⚫️【加田三七捕物そば屋】村上元三 旧幕時代、南町奉行所同心であった加田三七、御維新後湯島で蕎麦屋を始めた。だが昔の血が騒ぐ。
⚫️【貧乏同心御用帳】【岡っ引きどぶ】柴田錬三郎 何人もの親無し子を育てながらの貧乏同心、大和川喜八郎。岡っ引きどぶ、こいつは武士を捨てて飲む・打つ・買うの放蕩三昧。まあ狂四郎やら色んなのが出てくるは…。柴錬ここにあり!
⚫️【神谷玄次郎捕物控】藤沢周平、北町奉行所の定町廻り怠け者同心。
⚫️【耳なし源蔵召捕記事】有明夏夫 大阪弁がええねー。舞台は明治やさかい、化学をケミカル→舍密となって科学的捜査や岡蒸気に乗るのが大好きやし。耳なしの海坊主親分が一発カマス!。ほら浪速のど根性でっせ。
⚫️【彩色江戸切り絵図】【無宿人別帳】松本清張 切り絵図の「蔵の中」なんて大店の殺人事件なんだが、ある朝庭に穴が掘ってあってその中で男が死んでいる。一体何んで穴掘ったんだ?以外や以外、さすが清張ミステリー….。人別帳の大牢の話、こりゃ凄い、老名主、詰めのご隠居なんて、おめー、ツルはどうした?少し暑苦しいぜ、さくを作ろうぜ、きめ板で…..そして赤猫だーッ。
⚫️【鬼平犯科帳】池波正太郎 言わずと知れた火付盗賊改、長谷川平蔵だ。おとなしく縛につけイ!最近は彼の食生活のほうが人気!
⚫️【深川安楽亭】山本周五郎 捕物帳じゃないが、江戸の吹きだまりにのなかの人情。映画「いのちぼうにふろう」小林正樹の傑作。
●「与力同心目明しの生活」(1970年)横倉辰次:生活史叢書:捕物帳を読むにはその背景を。伝馬町の牢のしきたりなんてそれはもう!刺青の違いや縛り方、刑罰、お仕置き……興味がそそられる。江戸時代の刑罰はこのようだったのだ。首切り朝右衛門なんか……。
●「図解・隠し武器百科」(1977年)名和弓雄/新人物往来社:江戸時代は道具の発達は無かったという定説があるが、何のなんの、あるはあるは、あらゆるユニークな武器の百貨店だ。飛び道具印地ってご存知?子連れ狼に印地打ちの男が登場したりして。
よう、よう!それにしても「水戸黄門」「暴れん坊将軍」「遠山の金さん」は気に食わねエぜ、だってよ、最後は権力を振り回すんだぜ。何が庶民の味方でぇ、てめえは上にいてよ、食うや食わずのあっしらのことが分かるかッてんダ!てやんでェー!
1/ 30th, 2011 | Author: Ken |
怪物20面体
怪人20面相ならぬ20面体。何とインフルエンザウイルスも20面体だ。ウイルスとは生物か無生物か?他の生物の細胞を利用して、自己複製させる微小な構造体でタンパク質の殻と内部に詰め込まれた核酸からなる、と。生物学上は非生物とされているが40億年の進化の歴史がこいつにもあるはずだ。……四分の一世紀ぶりにインフルエンザで寝込んだ。いまだに頭が時差ボケ状態が続く。普段から風邪?
そんなもんWill Powerだ、意思の問題だと豪語していたのだが慎んで撤回し謙虚に謝ります。ゴメンナサイ。
人間が罹患するということはインフルエンザも人間とともに進化してきたのか?アウストラピテクスも罹ったのか?ネアンデルタール人も寝込んだのだろうか。特に1918年、第一次世界大戦中に発生したスペイン風邪は、戦争以上の犠牲者を出した。世界で約四千万人の死者ともいうし、日本でも約38万人といわれている。パンデミック(Pandemic:伝染病の大流行)だ。そういえば親父が生前、スペイン風邪は酷かった。みんなバタバタ倒れたとよく話していた。ふーん、インフルエンザはあまりにも日常茶飯事すぎて病気の内にもはいらないくらいだと思ってしまうが、ところがどうして毎年一番多くの人間を殺しているウイルスなのである。現在インフルエンザは、A型、B型、C型や、H1N1とかH3N2とか、ややこしいが、スペイン風邪は鳥インフルエンザに由来し、ヒトと鳥の双方に感染する豚を媒介として、その体内の中で鳥とヒトのインフルエンザウイルスが、遺伝子間の組替えを起こして、種の壁を越え、殺人ウイルスとして変化するのだそうだ。
●「4千万人を殺した戦慄のインフルエンザを追う」ピート・デイヴィス著、高橋健次/訳:文春文庫を読んだ。スペイン風邪のウイルスを見つけようと北極海に浮かぶスバールバール諸島やアラスカで氷ついた遺体を発掘して調べるが失敗。
ところが米軍理学研究所(AFIP)にホルマリン漬で保存されていた検体からH1N1のウイルスであったことを突き止める。そのノンフィクションでなかなか興味深かった。ウイルスという奇妙な奴!そこで奇怪なウイルスT4ファージという奴が登場。まるでSF映画の未来戦闘マシンみたいだ。進化の妙というか自然がこんなものを作りだすなんて!こいつはは構造的にきわめて安定で、溶液中で何年も感染機能を保持したまま過ごし、いったん宿主大腸菌に吸着すると100 %に近い効率で一連の過程を経て感染するそうだ。
まるでだれかがデザインしたみたいだ。いま世界中で開発しているロボット兵器もこんなやつが出てくるんじゃないか。そういえば「ミクロの決死園」(1966)という映画があった。あれから約半世紀、ナノマシーンも登場し日々進歩している。これも恐いね。バクテリアみたいに自己増殖するナノマシンができたらどうなるのだ。もしそれが、自己複製時のプログラム・エラー(突然変異)などにより暴走したら増殖が止まらなくなり指数関数的に増えて行く。数時間のうちに地球全体がナノマシンの塊になる。
ああ、考えただけで気分が悪くなる。小松左京の短編「ウインク」みたいだ。これは相当に気色悪い怖い話だよ。読んでごらん….。
1/ 27th, 2011 | Author: Ken |
常識を疑え?
よく大空を自由自在に飛び回る夢を見るという人が多いが、残念ながらぼくは一度も無い。だから飛行機から見る風景や地表は面白い。
ふーん、普段はあんな二次元を這い回っているんだ。いま飛行中は三次元だ。….空間に様々な図形を想像して3D画像を回してみる。
まず正三角錐、正6面体のキューブ、ピラミッド…。正三角錐は四面体(図1)だ。それをを二つくっつけると(図2)……4+4=8 2面を共有しているから8から2を引いて6面体。次に正三角錐にピラミッドの五面体(図3)をくっつける形を想像してみた。4+5=9 9から共有している2を引いて7面体。アレッ?何か変だ。計算では間違いなく7面だのに、頭のどこかが警告を発している。直感というやつだ。何かおかしいよ。なぜなのだ?こんなこと気にし出したらどしようもない。早速ノートに展開図を描いてみる。どうも分からん、ノートを破って模型を作ってみたのだが機上では作図がダルいしどうも…。こんなことを考えているともう着陸だ。
出張から帰ると早速PCで作図してケント紙の模型を作ってみた。4+5=9 9−2=7だろう。 出来上がったのを見るとトンでもない!5面体(図4)だ。常識って当てにならないものだ。実験すればすぐに分かる事が計算や想像では。その間違っていること自体が分からない。そういえば思い出すね。昔学校でパッケージの課題だった。みんな四角形の形を考えるが、ぼくはひねくれ者だから飴ん棒みたいなねじれた図形を考えた。作図して組み立てるのだがどうも上手くいかない。結局諦めてしまった。ところがベルリン空港にはそんなビルができたそうだ。ネットで検索してみて。変な形でしょう。
…….閑話休題…..そこで少し多面体のお勉強をしてみた。
正多面体 (regular polyhedron)、とは、すべての面が同一の正多角形で構成され、かつすべての頂点において接する面の数が等しい凸多面体のことであり、そしてこの僕たちの3次元宇宙には正多面体には正4、6、8,12,20面体の五種類しかない。なぜ5種類しかないの?
三次元空間の中に一つの頂点を取り、その周りに取ることが可能な正多角形に関する制限から、正多面体が先に示したことにより五種類のみである。それはオイラーの多面体公式から証明できる。とな …….. ぼくの数学知識ではオイラーの公式なんてどだい無理。
不思議だね。アジアカップを見ながら考えた。サッカーボールはどうだ?…五角形12枚、六角形20枚の切頂二十面体で作った球形である。なんと!ウィルスも二十面体だ。どうしてそうなるのだ?….最近インフルエンザに罹り寝込んでしまった。まだ後遺症が残っている。何か頭がボーとしている(生まれつきだろうが)。
ウィルスめ!おまえは物質か生物か?…宇宙、空間、進化、認識….不思議だね。
1/ 22nd, 2011 | Author: Ken |
FIVE FEET OF SOUL… ブルーズの魂。
短躯・超太っちょのおじさんのニックネームは”Five by Five”(身の丈も胴回りも5フィートというわけ)そう、ジミー・ラッシングだ。「ミスターブルーズ」「シャウター」とも呼ばれ、まさにブルーズの魂だ。始めて見たのは1963年、セロニアス・モンク来日のときのヴォーカリストだった。1903年生まれというから当時60歳だったわけだ。
あの太い体を揺すりながらシャウトし唄う姿にエンターテナーの真髄を感じた。そして笑顔が何ともたまらなく素敵なんだ….。オクラホマ・シティの音楽一家に生まれショー・ビジネスの世界を目指し、カンサス・シティで活躍、カウント・ベイシー楽団の専属歌手となりN.Y.に進出、バンドが解散する50年まで在籍した。その後ソロ歌手として活動、72年に逝去した。
…もちろんトラディショナル・ブルーズもいい、R・ジョンソンだってS・ロビンソンだって、B・ブラザーズだって楽しいことこの上なしだ。でもぼくはラッシングのようなシティ・ブルーズが好きなんだ。とにかくこれ聞いてみて! I left my baby 好きにならずにはいられないヨ!そして「Rushing Lullabies」だ。彼のボーカルの真骨頂を見せる名演の数々、”PinK Champagne” ピンク・シャンパンに思い出を…。ラストの名曲”Russian Lullaby・ロシアの子守唄” これまた円熟のジャンピン’テンポ!ウワオ!最高!彼をサポートするバックが素晴らしい。Buddy Tate(ts)、 Skeeter Best(g)、 Sir Charles Thompson(org)、Ray Bryant(p)、Gene Ramey(b)、Jo Jones(ds) 次はこれだ。「The Jimmy Rushing Special」まず「イブニン」アーシーで濃厚、ブルーズが身体に沁み込んでくる。ピアノのピート・ジョンソンのイントロに始まり、ラッシング→ルディ・パウエル(as)→エメット・ベリー(tp)→バディ・テイト(ts)→ローレンス・ブラウン(tb)が2コーラス。皆がラッシングを鼓舞し溌剌と燃え上がるのだ。Wow! たまんないヨ。そして「シー・シー・ライダー」これもコレモ…..mmmmm……いいね。
★You Tubeに戦前のカウント・ベイシートとのフィルムが沢山あるから楽しんで。
1/ 19th, 2011 | Author: Ken |
無惨やな
欧羅巴の街並には古めかしい彫刻やモニュメンが多い。その時代々の権力誇示だね。ギリシャ神話や英雄、偉人、軍人、聖人がこれでもかこれでもかと…。我が国にはかって道祖神やお地蔵さんはあったけれど、近代日本は公共物に彫刻、オブジェ、モニュメントの類いが多いのである。それがまた悪趣味というかお粗末というか街の景観と遊離しているのだ。…..金色の巨大ウンコとしか見えないのもあるね。まあ中心は豊満な女性のヌードである。
わが神戸には特に多いように思われる。セクハラだ!なんで女性なんだ?フェミニズム信奉者が文句をつけないのも疑問だね。本来日本の文化には白日のもとに裸体を愛でる習慣なんてありはしない。恐らく明治以降欧羅巴に追いつけとばかり模倣を繰り返したのだが、残念ながら欧羅巴文化にはギリシャ、ローマを源流とする肉体礼賛の美意識が二千年にわたってあった。それを東洋の島国がここ百年一生懸命形だけ真似したんだね。芸術だ!アートだ!文化だ!文句あっか!
お役人も審査官も美や芸術なんて分からないから、分かった振りして格好だけつけたんだね。市民の税金を使ってさ。ウーム、これは芸術だ!アートという言葉は魔法の言葉で何でも許されるのだ。…..だってアートなんだから。また偉い美術の先生は権威というお墨付きを得、小役人はお追従するしね。そんなこんなで町並みと全く釣り合わない裸体大会となったわけだ。
….大蔵山の公園でギョッとした。地上に堕ちたビーナスである。強風のせいか?酔漢の狼藉か?無惨にも頭をカチ割られ転がる自分の腕を見つめているのである。コーカソイド系の顔と身体で大和撫子とは違う種族である。それだけに乾いた悲みがある。
…..サルヴァドール・ダリはミロのヴィーナスの美はどこに埋まっているのだ?とヴィーナスに「抽き出し」をつけた….。これは美の真髄を見る良い機会だと頭部の中を覗いてみたのだが美なんてどこにもない空っぽである。恨めしそうに頭部の欠片と堕ちた腕を見つめる姿が何とも無惨で、嗚呼!無常と叫びたくなった。まあ、駄洒落の線でいくと「手の切れた女に用はない」というところか…。
そしてまたもやデザイン都市宣言である。行政やお役人がデザインなんて分かるの?またぞろ偉い先生と大手代理店が文化都市にはデザインが相応しいとか言ったんだろう。じゃまず公共出版物でもホームページでも綺麗にデザインしろよ。汚らしくも幼稚で媚びたゆるキャラ大会じゃないか!そういえばIDって知ってる。インテリジェント・デザインのこと。そう、この宇宙も地球も人間にあまりにも都合よく出来ている。それは超存在である「神」がデザインしたからだ。….と。進化論を否定する原理主義ですね。
芸術なんて歴史が時間が証明するものじゃないのかな。人を感動させるものは残るし時を経ても美しい。決して行政やマスコミや業者が札束で評価するもんじゃないし。難しいね…..そうだ!日本の場合は「お上」がゲージュツという崇高な?使命?の原理主義で…..。