10/ 19th, 2015 | Author: Ken |
The Maiden 乙女
彼女は比類なく美しかった。彼の眼にうつるのは彼女一人。彼は一時を惜しんで見つめ、恋いこがれた。すらりと高く、麗しく、彼女は立っていた。 ・・・彼女は自分の前に身を投げ出す男たちを、ひとり残らず、サディストらしい彼女のやり方で愛したのだ。 ・・・そして今、彼は彼女の方に疲れ切った頭をのせた。そして空を見上げ、恋する男の眼で彼女の顔の長い線に見入った。 ・・・そして二人 ・・・一枚の刃で結ばれた彼と彼女は深紅のオーガニズムにひたりながら、星の消え行く空の下に横たわっていた。
「乙女」レイ・ブラッドベリ・・・1ページにも満たないほどの短編だがその耽美、残酷美、プロット、リズムも冴え、奇妙な味の余韻がある。
ギロチンについてもっと知りたいのなら以下の本がお薦めです。
■「ギロチン―死と革命のフォークロア」 ダニエル ジェルールド著/金沢 智・訳/青土社
この恐るべき装置はフランス革命が生んだ。アンシャンレジームの矛盾を人道主義に基づいてと、発明された機械、ギロチン。ギヨタン博士は不名誉な名として歴史に残った。しかし先行する機械はあったのだ。「スコットランドの娘」「マンナイヤ」と呼ばれていた。あの父親殺しの悲劇の乙女ベアトリーチェ・チェンチも1599年に9月11日に執行された。・・・ギロチン、その血にまみれた誕生から廃止までの歴史、作家や芸術家たち与えた衝撃と大衆の受け止め方、恐怖の文化史だ。
■「死刑執行人サンソン」安達正勝・著/集英社新書
代々にわたってパリの死刑執行人を務めたサンソン家四代目の当主シャルル=アンリ。信心深く、国王、王妃を崇敬し敬愛していた。そして他ならぬその国王と王妃を処刑したことによって歴史に名を留める。それはフランス革命の裏面史だ。
■「ある首斬り役人の日記」フランツ・シュミット著/藤代 幸一 訳 白水Uブックス
ドイツ、ニュルンベルクの死刑執行人フランツ親方の日記。1573年から1617年までの刑罰の記録。
刑の執行月日、罪人の名前、その出身地、罪状、執行された刑罰が淡々と記述されている。(余談だがガストン・ルルーの短編「金の斧」は秀作である)。
■「パリの断頭台」バーバレ・レヴィ著/喜多迅鷹・元子/訳 文化放送開発センター出版部
フランスの死刑執行人・サンソン家の7代にわたるドキュメンタリー。
■「斬」綱淵謙譲 文春文庫
首切り浅右衛門として異名を馳せた男の歴史小説。七代に亘る一族の歴史と最後の首切り人吉亮を描く。その元ネタになったのが「山田朝右衛門の回想」報知新聞1908年。明治十三年に制定された刑法で「死刑ハ絞首ス」と定められた。浅右衛門吉亮の「斬」は使命を終えた。明治四十四年没。享年五十八歳。技に長け、大久保利通暗殺犯島田市朗らや、高橋お伝、雲井竜雄、夜おきぬ等を処刑した。その時、涅槃経の四句を心中に唱え、人先指を柄にかけるとき「諸行無常」、中指を下ろすとき「是生滅法」、薬名指を下ろすときに「生滅滅已」、小指を下ろすが迅いか「寂滅為楽ッ」という途端に首は前に堕ちるんです。と語る。